身上しんじょう)” の例文
身上しんじょうはなかなかえいそうだけれど、あれもやっぱりかわいそうさ。お前にそうして子どもをつれてゆかれたら、どんな気がするか
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
いわんや年もゆかぬ小童こわっぱ、見も知らぬ推参者にかかる無礼を加えられては、死んでも弱いは吹けないのが神尾としての身上しんじょうであります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
の奇妙な顔が身上しんじょうになっているので、この男がこうして真面目なのは、なんとも不気味で、ほとんどもの凄いような感じさえするのだった。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし二十三歳になった鉄は、もう昔日の如く夫の甘言にすかされてはおらぬので、この土手町の住いは優善が身上しんじょうのクリジスを起す場所となった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私が取り押えられるとその手紙を証拠にされて、ツァ・ルンバその人は下獄げごくされるであろうという恐れを抱き、また私の身上しんじょうも大いに気遣ったのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
われ等、身上しんじょうの事、岩間六兵衛を以て、御尋につき、口上にては、申し分けがたく候間、書付て御目に懸け候。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
立てると云えば立てるような身上しんじょうだから立てると答えた。するとまた十日ほどしていつ何日いつかの船で馬関から乗るが、好いかと云う手紙が来た。それも、ちゃんと心得た。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その刑事はヒンツキ(要視察人)の俺の身上しんじょう調査に来たので、例の殺人とは無関係の来訪だった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
親子兄弟、親類眷族けんぞくかかあめかけももちろん持たない。タッタ一人のスカラカチャンだよ。うじ素性すじょうもスカラカ、チャカポコ。鞄一つが身上しんじょう一つじゃ。親は木の股キラクな風の。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二十五の前厄まえやくには、金瓶大黒きんぺいだいこくの若太夫と心中沙汰になった事もあると云うが、それから間もなく親ゆずりの玄米くろごめ問屋の身上しんじょうをすってしまい、器用貧乏と、持ったが病の酒癖とで
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
力量次第どんな新手をあみだしても良く、むしろ人の気附かぬ新手をあみだすところに身上しんじょうがあり、それが芸術の生命で、芸術家の一生は常に発展創造の歴史でなければならないものだ。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
先生、諭吉に序文じょぶんめいず。諭吉は年来ねんらい他人の書にじょするをこのまずして一切そのもとめ謝絶しゃぜつするの例なれども、諭吉の先生における一身上しんじょう関係かんけいあさからずして旧恩きゅうおんの忘るべからざるものあり。
どうもあれたちがワルいテ。すこしばかり儲けた銭で、女にみつぐ位が彼の身上しんじょうサ。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しねえから、飼ったところで食いつぶしだけのもんだぜ。だからお前、やにっこい身上しんじょうじゃあ、熊あ一匹飼いきれねえよ
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
年がれて春がき、夏がきてまた秋がきた。花前はなまえもここにはや一年おってしまった。このかん、花前の一身上しんじょうには、なんらの変化へんかもみとめえなかった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
独眼にすごみを加えていらだって来た丹下左膳、無法の法こそ彼の身上しんじょうだ、突如! 左腕の乾雲をスウッ——ピタリ、おのが左側にひきおろしてぼうッと立った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御処分の日はまだ先の事にしても、今夜限りで、四家へ分れ分れにお預けになってしまう身上しんじょうだ。——例えば、内蔵助殿のようなおやと子も、叔父と甥も、多年の友も……
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな連中に比べると、ケチな椋鳥むくどりを引っかけて身上しんじょうをハタカせるのを唯一の楽しみにしている叔父なぞは、オッチョコチョイの悪魔ぐらいにしか見えなくなって来た。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
生きて峠が越えられねえのだから、死んで三途さんずの川を渡るのも、おつ因縁いんねんだろうじゃねえか。道行の相手に、まあこのくらいの女なら俺の身上しんじょうでは大した不足もあるめえ。
平常ふだんから、お父つぁんは何とお言いです? 男は気性きっぷ一つが身上しんじょうだ。こころ意気ってものが第一だ。胸の底が涼しくなけりゃア、人間の皮はかぶっていても、人間じゃアない。男じゃアない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
身上しんじょうを申し立て致し候にては御座なく候。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その代り、身分と身上しんじょうの確かな人であったら、年の違いや男ぶりなどはどうでもよいから……
皮肉にも、慈悲にも、同様に取れるところが一茶の身上しんじょうである。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)