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足趾
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あしあと
勘次が
顧つた
時、
彼を
打棄つた
船は
沈んだ
霧に
隔てられて
見えなかつた。
彼は
蜀黍の
幹に
添うて
足趾に
從つて
遙に
土手の
往來へ
出た。
霧が一
遍に
晴れた。
お
品は
田圃からあがる
前に
天秤を
卸して
左へ
曲つた。
自分の
家の
林と
田との
間には
人の
足趾だけの
小徑がつけてある。お
品は
其小徑と
林との
境界を
劃つて
居る
牛胡頽子の
側に
立た。
それでも
其處にはもう
幾度か
船がつけられたと
見えて
足趾らしいのが
階段のやうに
形づけられてある。
勘次は
河楊の
枝に
手を
掛けて
他人の
足趾を
踏んだ。
枝や
葉がざら/\と
彼の
蓙に
觸れて
鳴つた。