讃辞さんじ)” の例文
旧字:讃辭
その中年夫人は黙っているかの女に、なおも子供の事業のため犠牲になって貢ぐ賢母である、というふうな讃辞さんじをしきりに投げかけた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ところで、そうした讃辞さんじは、次郎にとって大きな悦びであると共に、また強い束縛そくばくでもあった。彼はいつも人々の讃辞に耳をそばだてた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
孤高とか、節操とか、潔癖とか、そういう讃辞さんじを得ている作家には注意しなければならない。それは、殆んど狐狸こり性を所有しているものたちである。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
博士はこの極東科学株式会社化学研究所長として令名れいめいがあるばかりではなく、「日本のニュートン」と世界各国から讃辞さんじを呈せられるほどの大科学者で
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
シューマンはブラームスの作品を見てすっかり有頂天になり、自分の主宰する雑誌「新しき道」にブラームスの発見を報告して、最大級の讃辞さんじを呈した。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
働いてこのパンフレットを長くつづかせたいものだと思う。冷たいコーヒーを飲んでいる肩を叩いて、つじさんが鉢巻をゆるめながら、讃辞さんじをあびせてくれた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
私は彼に向って「おかみさんを背負って銭湯へゆくのはたいへんだろうが、見ている者にとってはまことに心あたたまるものだ」というような讃辞さんじを述べた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、彼女の心は、憎からず思っている青年からの讃辞さんじを聴いて、張り裂けるばかりのよろこびで躍っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「君がもし鵞鳥がちょうか何かだったら、僕もビュッフォンがしたように君の讃辞さんじを書くところさ、君のその羽を一枚拝借してね。ところが、君はただの七面鳥にすぎないんだ」
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ピロン冷然として答ふらく、「易々いいたるのみ。君自身の讃辞さんじを作らば可」と。当代の文壇、聞くが如くんば、党派批評あり。売笑批評あり。挨拶あいさつ批評あり。雷同批評あり。
この開展かいてんせる瑩白色花蓋えいはくしょくかがいへんの中央に、鮮黄色せんおうしょくを呈せる皿状花冕さらじょうかべんえ、花より放つ佳香かこうあいまって、その花の品位ひんいきわめて高尚こうしょうであることに、われらは讃辞さんじしまない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それでわたしは、知り合いのそんな注目や、讃辞さんじや、随喜の涙が、みんな嘘っぱちで、寄ってたかってわたしを病人あつかいにして、いい加減な気休めを言っているみたいな気がする。
手をひざに眼をじて聴く八十一のおきなをはじめ、皆我を忘れて、「戎衣よろいそでをぬらしうらん」と結びの一句ひくむせんで、四絃一ばつ蕭然しょうぜんとしてきょく終るまで、息もつかなかった。讃辞さんじ謝辞しゃじ口をいて出る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私が最大級の讃辞さんじを博士にささげていると、ロッセ氏は、そうかそうかと、ペルシャねこのようにんだひとみをくるくるうごかして、しきりに感服かんぷく面持おももちだった。
記憶のよい読者は、去年の二科会に展覧された『真珠夫人』と題した肖像画が、秋の季節シーズンを通じての傑作として、美術批評家達の讃辞さんじを浴びたことを記憶しているだろう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「こんなことがあったっけだ」春さんはかれらの讃辞さんじから身をけるように云った、「二年兵になった秋ぐち、三連隊でひどくたちの悪い風邪が流行はやった、なんとかインフルエンザっていったっけ、 ...
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
信一郎は、つい心からそうした讃辞さんじを呈してしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)