蘚苔せんたい)” の例文
しかし大きく乱立している熔岩の多くには木振きぶりのいいひねた松が生え熔岩そのものも皆紫褐色しかっしょくに十分さびており、それに蘚苔せんたいとざしていて
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
幌内ほろない川沿岸の一円の地帯で、つまり蘚苔せんたい類の堆積で深い幾段もの層を成しているのですね。下層は土に化したように、こう黒く、や、これがそれです。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
かえでかし、桜、梅、百日紅さるすべりなどの木が、庭いっぱいに植えてあり、それらの一本ずつは、よく見ると枝ぶりがみごとだったり、幹に珍らしい蘚苔せんたいが付いていたり
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
木ぎれは蘚苔せんたいにくさって、鉄環てつわは赤くさびている、風雨幾星霜いくせいそう、この舟に乗った人は、いまいずこにあるか、かれはどんな生活をして、どんなおわりをとげたか。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その根もとには蘚苔せんたいの糸根かなにかいっぱいに紅く波に洗われ、渚には砂まじりの小石が綺麗にすいてみえる。そこで器を洗うと雑魚の群がよってきて指をせせる。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
羊歯しだの小自由国や、蘚苔せんたいの小王国を保護して、樅落葉松の純林、ほこそろへて隣々相立てるあり、これありて裾野の柔美式なる色相図しきさうづに、剛健なる鉄銹色てつしうしよくともし、無敵の冬をもして
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
径の傍らには種々の実生みしょう蘚苔せんたい羊歯しだの類がはえていた。この径ではそういった矮小わいしょうな自然がなんとなく親しく——彼らが陰湿な会話をはじめるお伽噺とぎばなしのなかでのように、眺められた。
筧の話 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
ならかつら山毛欅ぶなかしつき大木たいぼく大樹たいじゆよはひ幾干いくばくなるをれないのが、蘚苔せんたい蘿蔦らてうを、烏金しやくどうに、青銅せいどうに、錬鉄れんてつに、きざんでけ、まとうて、左右さいうも、前後ぜんごも、もりやまつゝみ、やまいはたゝ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
岩の隙間に密生した蘚苔せんたい類の華奢な花や、白く縮れた長い蘭の浮き上った根の間から空を見上げていたり、鹿の斑点に揺れる歯朶の歯のさわさわと風のように移動していく山面を見ていたり
馬車 (新字新仮名) / 横光利一(著)
この窟の中で何年いつか焚火した事があるものと見え蘚苔せんたいに封ぜられた木炭の破片を発見した事である、この外には這松はいまつの枯れて石のようになりたる物二、三本とうさぎの糞二、三塊ありしのみである
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
維新以前、会津侯が江戸登城の折は四千余尺のこの山道を通られたということで、路傍の叢中そうちゅうには一基の古碑、そのおもてに「右塩原あら湯みち、左会津道」と刻されてあるのが蘚苔せんたいに覆われて読める。
霧に押し沈められた、冷たい山気のなかに、しめっぽく蘚苔せんたいが匂った。半之助は立てて坐ったひざを、両手で抱えながら、なにを聞きいるともなく、うっとりと眼をほそめた。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ツンドラ地帯とは蘚苔せんたい類の層積から成る幌内川の沿岸は広袤こうぼう数十里に亘る地帯のいいである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
濃い緑の蘚苔せんたい類と混生する大久保羊歯しだの茂り具合などは、まだ目に残っている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
岩石という岩石はことごと蘚苔せんたいをつけていないものはないのである。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)