つぼ)” の例文
いわゆる神釈じんしゃくの句の中でも、人が尊重していた遁世とんせいの味、たとえば「道心どうしんの起りは花のつぼむ時」といったような、髪をる前後の複雑した感覚
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
をんなかたほヽをよせると、キモノの花模様はなもやうなみだのなかにいたりつぼんだりした、しろ花片はなびら芝居しばゐゆきのやうにあほそらへちら/\とひかつてはえしました。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
瓜生ノ衛門 いや、お坊ちゃまの方から先にそう開きなおられると、せっかくの花もつぼんでしまいます。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
つぼんだ薔薇を一面に開かせればそれがおのずからなる彼の未来である。未来の節穴を得意のくだからながめると、薔薇はもう開いている。手を出せばつらまえられそうである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
花の中には、夜の寒さに当てないやうにするために、夕方になると萼がつぼんで了ふのもある。
地震前の小径かと思はれる崩え崖のそこらには、土まじりの枯草に竜胆がつぼんでゐる。
蜜柑山散策 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
薙刀なぎなたかゝへた白衣姿の小池と、母親が丹精たんせいこらした化粧けしやうの中に凉しい眼鼻を浮べて、紅い唇をつぼめたお光とが、連れ立つて歸つて行くのを、町の人は取り卷くやうにして眼をそゝいだ。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
人気も無い荒寥こうりょうを極めた山坡に、見る眼も染むばかり濃碧のうへきの其花が、今を盛りに咲き誇ったり、やゝ老いてむらさきがかったり、まだつぼんだり、何万何千数え切れぬ其花が汽車を迎えては送り
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これは……しかし、菖蒲あやめ杜若かきつばたは——翌日よくじつやまみづ處々ところ/″\た、其處そこにも、まだ一輪いちりんかなかつた。つぼんだのさへない。——さかりちやう一月ひとつきおくれる。……六月ろくぐわつ中旬ちうじゆんだらうとふのである。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あの鈴形すずなりに澄んだ目も、きりッとつぼんだ口元も、板木師はんぎしが一本一本毛彫けぼりにかけたような髪のえぎわも、ふるいつきたいえりあしの魅力も、小股こまたのきれ上がった肉づきも、おれの手にかかれば翌朝は
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
痩せぎすの鼻の高い、それでも飾らぬ野生の美しさはその眼にその頬につぼんでいた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)