よし)” の例文
三人は勇気を出して裸になりました。そして土堤どての下のよしの中へ、おそるおそる盥をおろしてやりました。盥がばちやんといひました。
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「どうも廻り廻って悪い場所に来たもんじゃなア」と師父ブラウンが窓越しに灰緑色のよしや銀色の川波を眺めながら云った。
蔓苦菜じくばり蔓茘枝つるれいしが逼ひ出してゐる竹籔の間の崖径を降つて、よしの穂が伸びかかつてゐる川ふちに、彼は一散に駆け降りた。
繰舟で往く家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
彼は小さいよしくだで、腫物の口をこじ明けて、その管から貝母のしぼり汁をそそぎ込むと、数日の後に腫物はせて癒った。
裏の林の中によしえた湿地しっちがあって、もといけであった水の名残りが黒くびて光っている。六月の末には、剖葦よしきりがどこからともなくそこへ来て鳴いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼女はさだめし背の高い人で、年の頃三十五、六であろうと思われたという。簾はよしで織られた掛け物で、その背面には美しい透明の絹布を掛けたものである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其の内もう日はとっぷりと暮れましたが、葮簀張よしずッぱりもしまい川端のよしの繁った中へ新吉お賤は身を隠して待って居ると、むこうから三藏が作藏の馬に乗って参りました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私たちは途中からそれらのアカシアの間をくぐり抜けて、丁度サナトリウムの裏手にあたる、一面によしの這っている、いくぶん荒涼こうりょうとした感じのする大きな空地へ出た。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
英語にて紙をペエパー(Paper)と呼ぶは、パピラスよりでたのである。また日本訳聖書に「荻」と訳せしはむしろ「よし」と訳すべきもので、これまた水辺に育つ草である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
春日はるひ霞みて、よしあしのさゞめくがごと、笑みわたれ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ふた子池のよしの鳴る音がかすかに聞える。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
よし妹達いもたち、そと息き掛けよ。
よしの葉蔭でカツサカサと
おさんだいしよさま (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
よし行々子よしきり
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
ちょうど彼らの前面に当たって他の簾の後ろには位の高い人たちや諸貴女が集まっていた。よしの簾の間にはところどころに紙のきれを結びつけて隙間を大きくしたのがケンペルの目についた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二十両に負けてくれべい、だがくせい荷を引張ひっぱってくのは難儀だアから、彼処あすこ沼辺ぬまべりよしかげで、火をけて此の死人しびとを火葬にしてはどうだ、そうして其の骨を沼の中へ打擲ぶっぽり込んでしまえば
十一節に「あしあに泥なくてびんや、よしあに水なくして育たんや」とありて、この二つの植物が水辺に生ずるものなることを示している。「蘆」と訳せるはパピラス(Papyrus)であった。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)