若布わかめ)” の例文
「ぜんまいの甘煮うまにと、芝蝦しばえび南蛮煮なんばんになどはどうです。小丼こどんぶりあじ酢取すどり。若布わかめ独活うどをあしらって、こいつア胡麻酢ごますでねがいましょう」
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その定食という奴が若布わかめの味噌汁にうずら豆に新香と飯で、隆山は啓吉の飯を少しへずると、まるで馬のように音をたてて食べた。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ぼうぼうの髪を肩までたらし、若布わかめのような着ものをきて、ひげむくじゃらの顔、たけ高く、肩幅広く、熊笹くまざさのような胸毛を風にそよがせている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私達の乘つて行つた岡田丸は、海そうめん、若布わかめなどの乾してある海岸の岩の見えるところへ出た。かなたの岩の上には、魚見小屋も見えて來た。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
食料は米味噌こめみそ、そのほかに若布わかめ切り干し塩ざかななどはぜいたくなほうで、罐詰かんづめなどはほとんど持たない。野菜類は現場で得られるものは利用する。
地図をながめて (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
若布わかめのその幅六丈、長さ十五ひろのもの、百枚一巻ひとまき九千連。鮟鱇あんこう五十袋。虎河豚とらふぐ一頭。大のたこ一番ひとつがい。さて、別にまた、月のなだの桃色の枝珊瑚一株、丈八尺。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこを降りればみさきの根に、手ごろな舟が幾つもあった。鳴門若布わかめを採る舟である。周馬はヒラリとそれに乗って、大胆にも渦巻く狂浪の中へ突いて出た。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
○竹の子は昆布若布わかめあるいはヒジキ等の海藻類と共に煮る時は化学作用にて双方共に柔くなりかつ消化を良くす。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
兄さんはいそへ打ち上げられた昆布こぶだか若布わかめだか、名も知れない海藻かいそうの間を構わずけ廻りました。それからまた私の立って見ている所へ帰って来ました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
永い年月の衣料の不足は、質素しっそな岬の子どもらのうえにいっそうあわれにあらわれていて、若布わかめのようにさけたパンツをはき、そのすきまから皮膚ひふの見える男の子もいた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
繃帯の足ばかりじゃ無い、あの若布わかめのようなボロも、よく見ると恐ろしいセメントだ。
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
啓吉はランドセールを肩にすると、夏の初めにやって来る若布わかめ売りの子供のような気がして、何だか物語りの中の少年のように考えられ出して来た。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
○昆布と竹の子と煮る前に竹の子を皮附のまま昆布と共に長く湯煮ゆでて冷めるまで釜の中へ蒸らしておくと双方共に柔くなる。昆布なければ若布わかめにてもよし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
肩をなでる合総がっそう、顔を埋めるひげと胸毛を、風になぶらせて、相変わらず、ガッシリしたからだを包むのは、若布わかめのようにぼろのさがった素袷すあわせに、縄の帯です。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
若布わかめの附焼でも土産に持って、東海道をい上れ。恩地の台所から音信おとずれたら、叔父には内証で、居候の腕白が、独楽こまを廻す片手間に、この浦船でも教えてやろう。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貯えた野菜は尽き、ねぎ馬鈴薯じゃがいもの類まで乏しくなり、そうかと言って新しい野菜が取れるには間があるという頃は、毎朝々々若布わかめ味噌汁みそしるでも吸うより外に仕方の無い時がある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
硫黄いおうヶ島の若布わかめのごとき襤褸蒲団ぼろぶとんにくるまって、抜綿ぬきわたまろげたのを枕にしている、これさえじかづけであるのに、親仁が水でもはかしたせいか、船へ上げられた時よりは髪がひっつぶれて
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若布わかめう御座んすかねえ」と門口に立って声を掛ける女が幾人いくたりもあった。遠く越後の方から来る若い内儀かみさんや娘達の群だ。その健気けなげな旅姿を眺めた時は、お雪も旅らしい思に打たれた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
若布わかめ 一八・九二 一一・六一 〇・三一 三七・八一 — 三一・三五
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
若布わかめとかまぼこのてんぷらと、お金が五円きていますよ。」
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)