-
トップ
>
-
船中
>
-
せんちゆう
かくて
漸く
明日の朝薩摩富士の見ゆべしと云ふ海に
来り
候。これにて
船中の
筆とどめ申し
候。かしこ。(十月廿七日)
海蛇丸が
我弦月丸の
右舷に
衝突して、
風の
如く
其形を
闇中に
沒し
去つた
後は、
船中は
鼎の
沸くが
樣な
騷であつた。
翌朝、
銅鑼の
鳴る
音に
驚き
目醒めたのは八
時三十
分で、
海上の
旭光は
舷窓を
透して
鮮明に
室内を
照して
居つた。
船中八
時三十
分の
銅鑼は
通常朝食の
報知である。
何處でも
長い
航海では
船中の
散鬱にと、
茶番や
演劇や
舞踏の
催がある。
殊に
歐洲と
東洋との
間は
全世界で
最も
長い
航路であれば
斯る
凖備は一
層よく
整つて
居る。