がた)” の例文
ぜんたい欧洲種の猫は、肩の線が日本猫のやうにいかつてゐないので、がたの美人を見るやうな、すつきりとした、イキな感じがするのである。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
中背ちゅうぜいがたの上にラファエルのマリア像のような線の首筋をたて、首から続くきよらかなあごの線を細いくちびるが締めくくり、その唇が少し前へ突き出している。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
黒縮緬くろちりめんの三つ紋をがたに着こなして、くすんだ半襟はんえりに、まげばかりを古風につやつやと光らしている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
シグナレスはしくしくきながら、ちょうどやって来る二時の汽車をむかえるためにしょんぼりとうでをさげ、そのいじらしいなでがたはかすかにかすかにふるえておりました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
深夜の小田原おだわらの町を、六まいがたで二挺立ての早駕はやが、汗にれた声をあげて、真っ黒に通った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若夫人は美しかつたが、服装の加減でむしろあどけない様子であつた。ひどくがたに見えて、胴が皮帯ではちのやうに細く締めつけられてゐる若夫人に、私は英語で挨拶あいさつした。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
しまいがたばつた/\と何にもかもゆふべの夢の過たる惡事先第一は現在げんざいの弟を殺して此所こゝに居るめひのお文の身の代金しろきんうばひ取たる後腹あとばらは道十郎のからかさひろがる惡事をほねさへ折ず中山殿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
やがて小夜子はき口の方に立って、髪をすいた。なだらかながた均齊きんせいの取れた手や足、その片膝かたひざを立てかけて、髪を束ねている図が、春信はるのぶの描く美人の型そのままだと思われた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まわりの円味がかった平凡な地形に対して天柱山と吐月峰は突兀とっこつとして秀でている。けれどもちくとかしゅんとかいうそばだちようではなく、どこまでもがたの柔かい線である。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)