“老爺(おぢい)” の例文
老爺(おぢい)さんが云つて呉れた時分だ……あの頃にお前は未だ髪の毛などを垂(さ)げて居たよ、その人が最早(もう)お娵(よめ)さんに行くんだからねえ。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あれは子ープルスの家(いへ)の三階(がい)から見(み)へるエリノ島(しま)にその儘(まんま)です事(こと)、此方(こなた)のは頭(あたま)の禿(は)げた老爺(おぢい)さんが魚(さかな)を釣(つ)つて居(を)る形(かたち)によく似(に)て居(ゐ)ますねえ。
それが、どんな老爺(おぢい)さんでも、大きすぎても、厚つべつたくても、顏とおなじ調子に呼吸をしてゐる。まして若い男のは生々と動き働きかける。
夏の女 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
其(それ)を見(み)たい為(ため)に、独(ひと)り恁(か)うやつて構(かま)へて居(ゐ)る、……とお話(はなし)があつたやうに、其(そ)の時(とき)坊主(ばうず)から聞(き)いたんです……それは真個(ほんとう)の事(こと)ですか? 老爺(おぢい)さん。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
『呍(うん)、好(よ)し/\、此老爺(おぢい)さんが引受けたら間違ツこはねえが、何だな、お定さんも謀叛の一味に加はつたな?』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と篠田の暫(し)ばし其名を思ひ出し得ざるに、花吉が「あの、金山(かなやま)伯爵でせう、——小米さんも嫌(いや)がつて居たんですよ、頭の禿(は)げた七十近い老爺(おぢい)さんでしてネ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
多くの人から尊敬された老爺(おぢい)さんの話が出る度に、お節は自分の学校友達などの知らないやうな誇りを感じた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「其時(そのとき)の事(こと)を思(おも)ふと、老爺(おぢい)さん、恁(か)う言(い)ふ内(うち)にも貴方(あなた)の身体(からだ)も遠(とほ)くへ行(ゆ)く……ふら/\と間(あひだ)が離(はな)れる。」……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
浴室(ゆどの)だ、浴室(ゆどの)だ。見(み)ておいで。と女中(ぢよちゆう)を追遣(おひや)つて、倒(たふ)れ込(こ)むやうに部屋(へや)に入(はい)つて、廊下(らうか)を背後向(うしろむ)きに、火鉢(ひばち)に掴(つかま)つて、ぶる/\と震(ふる)へたんです。……老爺(おぢい)さん。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
なにしろお前のところの老爺(おぢい)さんが未だ達者で居た時分だ……あの薄い髯(ひげ)を撫でゝ居た時分だ……何か好きな物を御馳走しよう、御風呂を焚いたから俺に入れなんて
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
禿頭に細いチヨン髷を結つて居た老爺(おぢい)さんと、その娘にあたる獨身の姉さんと。斯の老爺さんは私達の隣國の舊藩士で、過去つた時代には相應の高い地位に居たとやら。