綿々めんめん)” の例文
もしも彼らの間に恋の花が咲いたなら、間もなく彼らを取り巻く花と空との明るさはその綿々めんめんとした異曲のために曇るであろう。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ト月過ぎタ月すぎてもこのうらみ綿々めんめんろう/\として、筑紫琴つくしごと習う隣家となりがうたう唱歌も我に引きくらべて絶ゆる事なく悲しきを、コロリン
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雲は白く綿々めんめんとして去来し、巒気らんきはふりしきるせみの声々にひとしおに澄みわたる、その峡中に白いボートを漕ぐ白シャツの三、五がいる。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
……わけても、奥方のお市の方様には、どうしても、良人おっとのおそばは去らぬ、この城を出て、兄君信長の許へ帰るこころはないと……綿々めんめん、御心情を
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人がはいってゆけば、その人を対手あいてにしてつきることなく、綿々めんめんと語り、悲嘆にくれるので、慰めようもなくて、捕虜になるのは禁物だと敬遠しあったほどだった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ふと母親のことを思ったそんな豹一の心は紀代子にはわからず、綿々めんめんたる情を書きつづった手紙を豹一に送った。豹一はそれを教室へ持参し、クラスの者に見せた。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
永い間の戦いに夏彦の部下も俺の部下も一人残らず死に絶えた。俺の弓矢はちて折れ夏彦の弓矢も朽ちて折れた。しかも二人の怨みばかりは綿々めんめんとして尽きぬのだ
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
起きて顔を洗って、にぎり飯を食って、書斎の机に向ったが、一向いっこうものを書く気にもならない。そこで読みかけの本をよんだ。何だかへんな議論が綿々めんめんと書いてある。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ヨブは死の近きを知り、かつその不当の死なることを一人も知るものなきをかなしみて、わが血をしてわが無罪を証明せしめんとて地に後事を託して、綿々めんめんたるうらみを抱いて世を去らんとするのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
綿々めんめんとして哀調を、舞う妓生の袖に送っている。
淡紫裳 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
そう努めれば努めるほど、何たる愚痴、心は綿々めんめんと、声なき独り言を、腐水ふすいの泡つぶのようにつぶやいてまない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いらざることを仰せあるものだ。しかも綿々めんめんと、衆人の中において……。兄者の持ち前だが、弱気といおうか、矛盾といおうか。正直にもほどがある」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
綿々めんめんと、さけぶに似たその声は、夜風のあいだに断続する。官兵衛は、のけらんばかり怪しんだ。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふたりの儒臣じゅしんが、憂いをおもてにあらわして、お家の大事とばかり、綿々めんめんと告げる一伍一什いちぶしじゅうを。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
綿々めんめんというのは、甚内を小さい時から育てて来た婆あやであった。彼女はなお
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あによめの登子とはどうだろうか。これからまだ綿々めんめんじょうを夫婦の室で惜しみ合うことであるのだろう。見てはいられない。これが兄の高氏だ。ふだんの兄の裏がわが今日はおおいえないのか。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあいだに、子をしていたら、若くあろうと、年とってからであろうと、子を主として将来の道をはかれ。女の綿々めんめんな愚痴にまような。何ごとも、母として考え、母として分別をとれよ。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、田舎にのこしておいた老母が、曹操の部下にひかれて、いまはひとり都に囚われの身となっている。……その老母より綿々めんめんとわびしさを便りして参ったので、やむなく、主君にお暇を
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で遂に、孟達は、そうした心境を綿々めんめんと書中に託して
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)