紫苑しをん)” の例文
にごれるみづいろへて極彩色ごくさいしき金屏風きんびやうぶわたるがごとく、秋草模樣あきくさもやうつゆそでは、たか紫苑しをんこずゑりて、おどろてふとともにたゞよへり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
犬芥いぬがらし、「約百ヨブなみだ」、紫苑しをん、どんなに血のれる心よりも、おまへたちのはうがわたしはすきだ。ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
O君は返事をする前にちよつとまゆをひそめるやうにし、縁先えんさき紫苑しをんへ目をやつた。何本かの紫苑はいつのにかこまかい花をむらがらせたまま、そよりともせずに日を受けてゐた。
O君の新秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
八月のなかばだつたが、碓氷うすひ峠をこえると秋の景色だつた。百合撫子萩桔梗紫苑しをん女郎花をみなへしを吹く風の色が白かつた。草津へ通ふ馬の背の客の上半身が草の穗の上にあらはれてゐた。
山を想ふ (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
うすあかりが青くけむり東のそらには日本の春の夕方のやうにねずみ色の重い雲が一杯に重なってゐた。そこに紫苑しをんの花びらが羽虫のやうにむらがり飛びかすかに光って渦を巻いた。
花椰菜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「あながち岸といふ詞にこだはる必要はありますまい。私は紫苑しをんか何かの……」
……とほりの花屋はなや花政はなまさでは、きかないぢいさんが、捻鉢卷ねぢはちまきで、お月見つきみのすゝき、紫苑しをん女郎花をみなへし取添とりそへて、おいでなせえと、やつてた。みづもいさぎよい。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
紫苑しをん基督キリスト御最後ごさいごのおんかたどるせつない花。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
たしかに紫苑しをんのはなびらは生きてゐた。
花椰菜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)