納戸色なんどいろ)” の例文
納戸色なんどいろ、模様は薄きで、裸体の女神めがみの像と、像の周囲に一面に染め抜いた唐草からくさである。石壁いしかべの横には、大きな寝台ねだいよこたわる。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある日の午後、葉子は庸三ようぞうの同意の下に、秋本の宿を訪問すべく、少し濃いめの銀鼠地ぎんねずじにお納戸色なんどいろ矢筈やはずつながっている、そのころ新調のお召を着て出て行った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その蔭に、遠いあかりのちらりとするのを背後うしろにして、お納戸色なんどいろの薄いきぬで、ひたと板戸に身を寄せて、今出て行った祖母としより背後影うしろかげを、じっと見送るさまたたずんだおんながある。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と膝に手を突いて起上りますると、鼠小紋ねずみこもん常着ふだんぎ寝着ねまきにおろして居るのが、汚れッが来ており、お納戸色なんどいろ下〆したじめを乳の下に堅くめ、くびれたように痩せて居ります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
のあらわれた河原には白いさぎがおりて、納戸色なんどいろになった水には寒い風が吹きわたった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
田舎の女には珍らしくみづ/\して其のお納戸色なんどいろの型附半襟はんえりうちから柔らかな白い首筋の線がのび/\と弧を描いて耳柔みゝたぶの裏の生際はえぎはの奥に静かに消え上つてゐるのなどを彼は見た。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
雑木林の楢にから自然薯じねんじょつるの葉が黄になり、やぶからさし出る白膠木ぬるでが眼ざむる様なあかになって、お納戸色なんどいろの小さなコップを幾箇もつらねて竜胆りんどうが咲く。かしの木の下は、ドングリがほうきで掃く程だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私はすぐ傍にどしりと投げしわめられて七宝配しっぽうくばりの箔が盛り上っている帯をすくい上げながら、なお、お納戸色なんどいろ千羽鶴せんばづるの着物や、源氏あし手の着物にも気を散らされながら、着物と帯をつき合せて
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
剃り立て頭に頭巾をかむり、無地の衣裳にお納戸色なんどいろの十徳、色の白い鼻の高い、眼のギョロリとした凄味すごみのある坊主、一見すると典医であるが、実は本丸のお数寄屋すきや坊主、河内山宗俊こうちやまそうしゅんが立っていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大きに草臥くたびれましたから茶店に腰を掛けて休んでいると、其処そこへ入って来たお百姓は年齢としごろ四十四五で、木綿のぼうた布子ぬのこに羽織を上に着て、千草ちくさの股引で、お納戸色なんどいろ足袋たび草鞋わらじ穿
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)