精舎しょうじゃ)” の例文
旧字:精舍
その縁起をたずぬるに、慶安の頃ほひ、山城国、京洛、祇園の精舎しょうじゃに近く、貴賤群集のちまたに年経て住める茶舗美登利屋みどりやといふがあり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あまりといへば事の意外なるにわれはこの精舎しょうじゃのいかなる訳ありてかかる浅間しき女の隠家かくれがとはなれるにや。
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
寺は精舎しょうじゃとも、清浄地とも言わるるところから思いついて、明治二年のころよりぽつぽつ万福寺の裏山を庭に取り入れ、そこに石を運んだり、躑躅つつじを植えたりして
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
京都六角堂の精舎しょうじゃから、かがやかしい顔いろを持って、春かぜの吹くちまたへ出てきた旅の沙門しゃもんがある。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ましてやここは諸縁断絶しょえんだんぜつ、罪ある者とてもひとたびあれなる総門より寺内に入らば、いかなる俗法、いかなる俗界のおきてを以てしても、再び追うことならぬ慈悲の精舎しょうじゃじゃ。
「するとつぎ精舎しょうじゃだ。城外じょうがい柏林かしわばやしに千人の宿やどをつくるよう工作のものへってくれないか」
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
甲野さんも、宗近君もこの精舎しょうじゃを、もっとも趣きある横側の角度から同時に見上げた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこにリ・ラ・プリー(ヤクの角の所という意味)という精舎しょうじゃがあります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
釈尊は雪山せつせんへおいでになりました、弘法大師も高野へ精舎しょうじゃをお営みになりました、永平の道元禅師は越前の山深くかくれて勅命の重きことをかしこみました、日蓮聖人も身延の山へお入りになりました
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この年の集には僧房精舎しょうじゃの光景また増上寺附近の勝地を詠じた作が多いからである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
先のななめに減ったつえを振り廻しながら寂光院と大師流だいしりゅうに古い紺青こんじょうで彫りつけた額をながめて門を這入はいると、精舎しょうじゃは格別なもので門内は蕭条しょうじょうとして一塵のあとめぬほど掃除が行き届いている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宋朝そうちょう初期のころには、紫雲しうん薫香くんこう精舎しょうじゃの鐘、とまれまだ人界の礼拝らいはいの上にかがやいていた名刹めいさつ瓦罐寺がかんじも、雨露うろ百余年、いまは政廟せいびょうのみだれとともに法灯ほうとうもまた到るところほろびんとするものか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お寺は精舎しょうじゃというくらいのところですから、本堂でも庭でも位牌堂いはいどうでも清潔にしておかねばなりません。それには住持の役をつとめるものがまずからだも心も清くないことには、つとまりません。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
僧侶ぼうさんのような禁欲の生活——寂しい寂しい生活——しかし、それより外に、養うべき妻子を養いながら、同時にこの苦痛を忘れるような方法は先ず見当らなかった。このまま家を寺院精舎しょうじゃと観る。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こう三日三晩を彼が送っている所は、六角堂の精舎しょうじゃであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、上皇は、ここになお、一精舎しょうじゃを、建てられた。
自分を叱咤して、精舎しょうじゃを排した。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)