白魚しらお)” の例文
恋と死神にかれたように、右門はここまでふらふらと来てしまった。「白魚しらおばし」と橋杭はしぐいの文字を見た時、はっとした。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白魚しらおの指のさきの、ちらちらと髪をくぐって動いたのも、思えば見えよう道理はないのに、てっきり耳が動いたようで。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
打ち打擲ちょうちゃくはまだしもの事、ある時などは、白魚しらおの様な細指を引きさいて、赤い血が流れて痛いのでかないが泣くのを見て、カラカラと笑っていると云った様な実に狂気きちがいじみた冷酷の処置であった。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
この上は国元へ頼遣たのみやった別途の金の到着するのを、写真を膝に指折るばかり、淀文へも存じながら無沙汰したが、その十日ほどに白魚しらおは椀をおわれて、炙物やきものの端に粒の蚕豆そらまめが載る時となった。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
いつ見ても初物らしき白魚しらお
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
取った湯呑は定紋着じょうもんつき、蔦を染めたが、黄昏に、薄りとあおずむと、宮歳の白魚しらおの指に、撥袋の緋が残る。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白魚しらおのような指の爪に、内には流れているものが、ほの紅く透きとおっていた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冒頭に置いての責道具ハテわけもない濡衣ぬれぎぬ椀の白魚しらおもむしって食うそれがしかれいたりとも骨湯こつゆは頂かぬと往時権現様得意の逃支度冗談ではござりませぬとその夜冬吉が金輪奈落こんりんならくの底尽きぬ腹立ちただいまと小露が座敷戻りの挨拶あいさつ長坂橋ちょうはんきょう張飛ちょうひ睨んだばかりの勢いに小露は顫え上りそれから明けても三国割拠お互いに気まずく笑い声は
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
片手を添えて、捧げたのは、錦手にしきでの中皿の、半月なりれたのに、小さな口紅三つばかり、うち紫の壺二個ふたつ。……その欠皿も、白魚しらおの指に、紅猪口べにちょくのごとく蒼く輝く。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両国鮓りょうごくずしかい、白魚しらおの鮓なざ、ちょっとおつだな』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隅田おおかわに向いた中二階で、蒔絵まきえの小机の前を白魚しらお船がすぐ通る、欄干にもたれて、二人で月をた、などと云う、これが、駿河台へ行く一雪の日取まで知っているんだ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おお、おお、苦しいから白魚しらおのような手をつかみ、足をぶるぶる。」と五助は自分で身悶みもだえして
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こうだに因ってと、あるよあるよ。白魚しらおをからりッとり上げて、たかつめでお茶漬が、あっさりとしておつう食わせる。可いかい。この辺に無かったら、吉造を河岸かしへ見にやんな。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白魚しらおのような指が、ちょいと、紫紺しこん半襟はんえりを引き合わせると、美しいひとみが動いて
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浅葱あさぎひもは白いえりから、ふさふさとある髪をくぐって、つとは両手に外された。既にその白魚しらおの指のかかった時、雪なすきぬの胸を通して、曇りなき娘ののあたりに、早や描かれて見えるよう。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白魚しらおという指をらして、軽くその小児こどもの背中を打った時だったと申します。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何の、火は赤々とあって、白魚しらおに花が散りそうでした。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)