片襷かただすき)” の例文
お夏は片襷かただすきを、背からしなやかに肩へ取って、八口の下あたり、長襦袢ながじゅばんのこぼるる中に、指先白く、高麗結こまむすびを……仕方で見せて
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次は月代さかやきあたつて貰ひ乍ら、振り向いて見ようともしません。尤も剃刀かみそりを持つて居るのは、片襷かただすきを掛けた戀女房のお靜。
露路奥の浪人ものは、縁へ出て、片襷かただすきで傘の下張りにせいを出し、となりの隠居は歯ぬけうたい。井戸端では、摺鉢のしじみッ貝をゆする音がざくざく。
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
利三は、はかまをからげ、片襷かただすきをかけて、彼の背を洗っていた。仄暗ほのぐらい湯気と明りの中に、光秀は甘んじて、背を洗わしながら、首うなだれて、黙りこんでいた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんなら番頭に逢わせてくれと云うと、四十ばかりの男が片襷かただすきの手拭をはずしながら出て来た。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
年の頃はまず三十四五、手拭てぬぐいをかぶり片襷かただすきをかけて、裾短すそみじかに常の衣服を着ている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
小女がゆくまでもなく、片襷かただすきをした四十がらみの男がこっちへ出て来た。
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そんな話をして居るところへ、赤前垂に、型の如く片襷かただすきをかけたお常が、眞鍮磨しんちうみがきの釜から湯をくんで、新しい茶を入れて持つて來てくれます。
お通は、小さな旅包みを片襷かただすきに負い、髪から足ごしらえまで、すっかり旅出たびでの身仕度をしているのである。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
申合わせて三人とも、青と白と綯交ないまぜの糸の、あたかも片襷かただすきのごときものを、紋附の胸へ顕著にたいした。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そんな話をしているところへ、赤前垂あかまえだれに、型のごとく片襷かただすきをかけたお常が、真鍮磨しんちゅうみがきのかまから湯をくんで、新しい茶を入れて持って来てくれます。
そのわたを二升瓶に貯える、生葱なまねぎを刻んでね、七色唐辛子を掻交かきまぜ、掻交ぜ、片襷かただすきで練上げた、東海の鯤鯨こんげいをも吸寄すべき、恐るべき、どろどろの膏薬こうやくの、おはぐろどぶ
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、自分を叱咤しったするように、即座に、袴をくくり上げ、下緒さげおを解いて、袖を片襷かただすきにからげた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
錢形の平次は、椽側の日向ひなたに座布團を持出して、その上に大胡坐おほあぐらをかくと、女房のお靜は後ろに廻つて、片襷かただすきをしたまゝ、月代さかやきつて居りました。
客の人柄を見てまねきの女、お倉という丸ぽちゃが、片襷かただすきで塗盆を手にして出ている。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気にもかけないで、お蝶は、長い派手はでたもと片襷かただすきをかける。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
氣樂さうな片襷かただすき、中年者の浪人庵崎數馬は、馬鹿にしたやうな打ち解けたやうな、一種の態度で迎へます。
とぼけた手拭、片襷かただすきで、古ぼけた塗盆へ、ぐいと一つ形容の拭巾ふきんをくれつつ
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叔父は、下げ緒を解いて、片襷かただすきをかけた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お靜は片襷かただすきを外して、そつと徳利を取上げました。夜店物の松竹梅の三つ重ねが、一つはふちけて
十九というにしては少しけて居りますが、地味なあわせにこればかりは燃えるような赤い片襷かただすき、いずれかと言えば淋しく品の良い顔立ちで、口の悪い素見ひやかしの客などは
十九といふにしては少しけて居りますが、地味なあはせにこればかりは燃えるやうな赤い片襷かただすき、いづれかと言へば淋しく品の良い顏立ちで、口の惡い素見ひやかしの客などは
片襷かただすき——それは女房のお靜に、たもとへ糊がつくからとこぼされて、お靜自身のを拜借した赤いの。
飛んで出た女房のお静は、片襷かただすきをかなぐりてるように、すがり付きたいのを我慢しいしい、姉さん冠りの手拭を取って、平次の肩から裾へ、旅のほこりを払ってやるのでした。
赤前垂、片襷かただすき、お盆を眼庇まびさしに、おびえ切つた眼の初々うひ/\しさも十九やくより上ではないでせう。
「赤前垂に赤い片襷かただすき、揃のあわせで皆んな素足だ、よくもあんなに綺麗なのを五人も揃えたと思うと、亭主の造酒助みきすけよりもその配偶つれのお余野というのが、大変な働き者だったんですね」
界隈かいわいで評判の美しいお通は、——いらっしゃい——と言う代りに、思わず悲鳴をあげてしまいました。赤前垂、片襷かただすき、お盆を眼庇まびさしに、おびえ切った眼の初々ういういしさも十九やくより上ではないでしょう。
平次の女房のお静が、片襷かただすきを外したまま、覗き加減に声をかけました。
手には今いだばかりの剃刀を持つて、右の袖だけまくり上げた片襷かただすき。その袖口からチラリと見える袷の裏が、定石通りの花色木綿でもあることか、何んと、少し色のせた黒木綿ではありませんか。