爽快さうくわい)” の例文
晩秋のある日、神田の裏長屋の上にも、赤蜻蛉あかとんぼがスイスイと飛んで、凉しい風が、素袷すあはせの襟から袖から、何んとも言へない爽快さうくわいさを吹き入れます。
危険な感情だつたが、その危険な思ひに這入り込んでゆける勇気が、爽快さうくわいでさへあつた。殺してやる。そして、自分も折り重なつて死ぬ。それだけのものだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
くして翌朝よくあさ起出おきいでたときには、のう爽快さうくわいなることぬぐへるかゞみごとく、みがけるたまごとく、腦漿のうしやう透明たうめいであるかのやうかんじるので、きはめて愉快ゆくわい其日そのひ業務げふむれるのである。
其處らがしんとして薄暗うすぐらい。體が快くものうく、そして頭が馬鹿に輕くなツてゐて、近頃ちかごろになく爽快さうくわいだ………恰で頭の中に籠ツてゐた腐ツたガスがスツカリ拔けて了ツたやうな心地である。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
定め此婚姻こんいんさまたげんとたくみ奸計かんけいに當りつひにお光が汚名をめいかうむ赤繩せきじようたえたる所より白刄しらはふるつてかん白洲しらす砂石しやせきつかむてふいと爽快さうくわいなる物語はまたくわいを次ぎ章を改め漸次々々に説分くべし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
粗剛そがうあつかはかこみからのがれて爽快さうくわい呼吸こきふ仕始しはじめたことをよろこぶやうにずん/\と伸長しんちやうして、つひにはつても/\、猶且やつぱりずん/\と骨立ほねだつてみきさらかたちづくられるほど旺盛わうせい活力くわつりよく恢復くわいふくするのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この数ヶ月をり減らされたやうな心の痛みが、広い海上に出ると、足もとや肩にまつはりついてゐた、運命のくさりを、吹飛ばしてくれるやうな、爽快さうくわいな気持ちだつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
たうとう富岡が、落ちぶれてやつて来たと思ふと、胸のなかが痛くなるほど、爽快さうくわいな気がした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)