無頓着むとんぢやく)” の例文
一つフロツクコートで患者くわんじやけ、食事しよくじもし、きやくにもく。しかれはかれ吝嗇りんしよくなるのではなく、扮裝なりなどにはまつた無頓着むとんぢやくなのにるのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
流石に伊藤公は無頓着むとんぢやくで、悪い顔もせず、入口にどかりと胡坐あぐらを掻いたまゝ、例の女の唇を数知れずめた口元をゆがめながら、芝居話に興じてゐたが
しかし当人の男ぶりは紋服たると燕尾服えんびふくたるとを問はず独立に美醜を論ぜらるべきである。「女と影」に対する世評は存外ぞんぐわいこの点に無頓着むとんぢやくだつたらしい。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ところが一二ねん此方このかたまつた自他じた差違さゐ無頓着むとんぢやくになつて、自分じぶん自分じぶんやううまいたもの、さきさきやううんつてなかたもの、兩方共りやうはうともはじめから別種類べつしゆるゐ人間にんげんだから
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私は、彼の謙遜な言葉に無頓着むとんぢやくではゐられなかつたし、またさう思はれたくなかつた。
饂飩うどんきて茶碗ちやわん亂雜らんざつされたときよるおそいことに無頓着むとんぢやく彼等かれらはそれからしばらめどもなく雜談ざつだんふけつた。彼等かれらつひ自分じぶん村落むら野合やがふ夫婦ふうふ幾組いくくみあるかといふことをさへかぞした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
どんな場合にも無頓着むとんぢやくだつた上人は、上客じやうきやくから茶碗を受取ると、一息になかの濃茶を口に含んでしまつた。
しかし、それは私の場合には一向いつかうに合はないことが分つてるからそれではいけませんよ。何故つて、私はその二つの有利なものを、あへて惡用したとは云はないが、無頓着むとんぢやくな使ひ方をしましたからね。