無上むじょう)” の例文
ひろ野原のはらうえには、雲切くもぎれがして、あおかがみのようなそらえていました。えだは、それをると、無上むじょうになつかしかったのです。
風と木 からすときつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
僕が自分の事を例に出すのもおこがましいが僕なぞは文筆を以て社会を感化するのが何よりの楽みだね。実に人生無上むじょうの愉快だね。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いて形容詞のなかへ入れられないような人間同志が無上むじょうの信頼と哀楽あいらく相憐あわれみとを共にして生きてる。——
当代とうだい人気役者にんきやくしゃそうろうていると、太鼓持たいこもちだれかに一いわれたのが、無上むじょう機嫌きげんをよくしたものか、のほほんとおさまった色男振いろおとこぶりは、ほどものをして
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
昔しの人はそうこそ無上むじょうなれと説いた。く水は日夜を捨てざるを、いたずらに真と書き、真と書いて、去る波の今書いた真を今せて杳然ようぜんと去るを思わぬが世の常である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もとより暴君汚吏おり民を悩まし人をぎょしたるものもすくなからざりしといえども、概して論ずれば徳川時代の封建政治は、我が国民に取りては、開闢かいびゃく以来無上むじょうの善政たることは、吾人ごじんが敢て断言する処。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それでいてふしぎに手毬だけを無上むじょうに愛していた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
無上むじょうに嬉しくってたまらない。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに今の世の夫婦たる者を御覧なさい。たがいに双方で満足して人間無上むじょうの幸福をけている人が幾人いくにんありましょうか。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いまどきこんなかんがえをもつものがあろうかと、なんだか、うそのようながしたけれど、無上むじょうにうれしかった。そして、きゅうにこのなかあかるくなったようで、希望きぼうがもてたのである。
アパートで聞いた話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
牛の脊髄せきずいのスープとったような食通しょくつう無上むじょうに喜ばせる洒落しゃれた種類の料理を食べさせる一流の料理店からねぎのスープを食べさせる安料理屋に至るまで、巴里の料理は値段相当のうまさを持っている。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
このゆえ天然てんねんにあれ、人事にあれ、衆俗しゅうぞく辟易へきえきして近づきがたしとなすところにおいて、芸術家は無数の琳琅りんろうを見、無上むじょう宝璐ほうろを知る。俗にこれをなづけて美化びかと云う。その実は美化でも何でもない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
殊に彼の性質からでは、一旦欲しいとなったら、無上むじょうに欲しくなって堪らないのだろう。それともあの紅、紫、青、黄などの絵具が付いていたので、何んか非常に好い物とでも思ったのか知らん……。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)