淫猥いんわい)” の例文
そこはある半羊神が百万の富者になり卑しいチュルカレーがプリアプ神になったという話しにふさわしい、淫猥いんわい陥穽あなだった。
祈ると同時に大原君が家庭教育取調とりしらべの任をおわって海外から御帰朝なさる時分には我邦の社会にもまた野蛮的の飲酒会さけのみかい淫猥いんわいなる宴会のあと
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
非常に淫猥いんわいけものじゃそうでね、下宿した百姓の娘などは、その声を聞くと震えるですわい、——現在私も、それは知っとる。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ロア・デ・リボー(淫猥いんわい王)わが邦中古傀儡くぐつの長吏様の親方が所々にあって本夫ほんぷ外の男と親しむ女人より金五片ずつの税を
そうすると口では言えないいろいろ淫猥いんわいなことが平気にそれからそれへととっぴにいろどりをつけて想像される。それがまた逆に彼の慾情をあおりたてた。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
数年来彼は毎朝、くだらない文学新聞の淫猥いんわい頽廃たいはい的な小説を耽読たんどくしていた。そのために頭が変梃へんてこになっていた。
僕達は、あの淫猥いんわいなアクロバティック・ダンスを見て帰ると、其の次の日には、僕の室をすっかり閉めきって、二人で昨夜のダンスを真似てみるのだった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
淫猥いんわい滅茶苦茶めちゃくちゃに勘定が高く、白痴のヤミ屋がゆくものと決めていた社交喫茶というものにも、桂子が勤めているときき、二、三度場所をかえ、顔を出してみた。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
わたくしはふと江戸の戯作者また浮世絵師等が幕末国難の時代にあっても泰平の時と変りなく悠々然ゆうゆうぜんとして淫猥いんわいな人情本や春画をつくっていた事をはなはだ痛快に感じて
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこでは、考えるあらゆる奇怪なる遊戯が行われた。パリのグランギニョルにならった、血みどろで淫猥いんわいな小劇、各種の試胆会したんかい風な催し物、犯罪談、etc、etc。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この話は三上の直接の、彼自身だけに関する露骨な淫猥いんわいな話よりも、聴衆に受けがよかった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
淫猥いんわいとも云えば云えるような陰翳いんえいになって顔や襟頸えりくびや手頸などを隈取くまどっているのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
三種類の外国語に熟達したが、それも、ただ、外国の好色淫猥いんわいの詩を読みたい為であった。僕の空想の胃袋は、他のひとの五倍も広くて、十倍も貪慾どんよくだ。満腹という事を知らぬ。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
世には淫猥いんわい無頼ぶらいの婦人多かるに、ひとり彼女の境遇のいと悲惨なるをあわれむの余り、妾の同情も自然彼女に集中して、宛然さながら親の子に対するが如き有様なりしかど、あたかも同じ年頃の
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
盆踊りのあと淫猥いんわいの実行が行われるから困ると非難する者もあるが、その実行は盆踊りの後に限った事ではない。芝居の帰途かえりにもある。活動写真の戻りにもある。日々谷公園の散歩中にもある。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
人が皆こぞって邪悪だと見なすようなあらゆる淫猥いんわいな欲望を、この少年はもっていた。それが突風のように不意にさっと起こってきて、彼をつかみ取った。
静軒は滑稽諧謔こっけいかいぎゃくの才あるに任せややもすれば好んで淫猥いんわいの文字をもてあそんだが、しかしその論文には学識すこぶる洽博こうはくなるを知らしむるものすくなからず、またその詩賦には風韻極めてしょうすべきものが多い。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし書物にも病人の慰藉いしゃにならずして悪い刺撃になるような淫猥いんわいなものが多いし、花にも梅だの罌粟けしだのというような人体に害するものあるからよほどその種類を選択しなければならんよ
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼女は神に話しかけて、罪は神にあるのだと強情に主張した。あるいは情欲の炎が眼に燃えてきた。そして自分でも知らないような淫猥いんわいな言葉を発した。
もし淫猥いんわいな芝居が演ぜられていても、「これは淫猥だ、」とは彼らは言わなかった。彼らはこう言った。
一人の舞妓まいこのために、一人の歌妓かぎのために、某氏の情婦のために、あるいは某夫人の贔屓ひいきの女のために、歌劇オペラを上演するのだ。君らは淫猥いんわいなことをしか頭においていないんだ。
皆りっぱな紳士であるが、昔の情婦たちの雇い監督となり、彼女らの取り引きや情交などを監視した。社交界の婦人は盗みを事としていた。男子は媒介人であり、娘は淫猥いんわいだった。