ぱな)” の例文
鼻はこする、水っぱなはかむ。笊の中は掻きまわす。嗅いで見る。おくびはする。きたならしいの、いやらしいのといったらないのだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
あおぱなだの、腫物できものたかりだの、眼やにくそだの、味噌っぱだの、頬も手も、かじかんでる癖に、寒さを知らない伊吹山の麓の風の子たちが
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
声色こわいろにしちや語呂の悪い、啖呵たんかを切り出した所は豪勢だがの、つらを見りや寒いと見えて、みづぱなが鼻の下に光つてゐる。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
細々としてゐるくせに、妙にふくよかなお初の風情は、平次もホロリとさせられましたが、それより八五郎の感激は大したもので、水つぱなを横なぐりに
みんながきゅうったせいか、みずぱなたぜ。風邪かぜでもいちゃァたまらねから、そろそろかえるとしべえかの
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
よし、よし、と赤児でもあやす気持ちで頸筋くびすじでてやると、驢馬は鼻をびくつかせながら口をもってきた。水っぱなが顔に散った。許生員は馬煩悩ぼんのうだった。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
眼カラハダラシナク涙ガ流レ出シ、鼻カラハ水ッぱなガ、口カラハよだれガダラ/\ト流レ出シタ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
見ると山羊髯のおやじは仕事が閑散だと見えて、大阪の新聞の経済欄を読みながら、朝日を吸ってはき入り、咳き入っては水ッぱなをすすり上げている。タヨリない事夥しい。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ばあさんなんぞみずぱなあたらして泣いたぞ、……夫婦は二世といってたって、縁が切れれば他人だ、てめえなんぞはのたれ死にをしたっていい人間だ、それをお兼さんはこんなに
ゆうれい貸屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
青っぱなを少しずつ舐めている子供、うしろにのけったり、机にうつ伏せたり、脚を腰かけの横にぬーっと出してまるで倒れかかった自分の身体を危く支えたりしていた子供たちが
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
すぐ水ッぱなすすったのは、目明し万吉、屑屋に早変りの心支度が、自然にそうさせたものなのだ。膝やたもとの土を払って、鉄砲笊を斜めにかつぎ
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かまちで煙管をはたきながら、大真面目におれがひやかすと、あいつは酔もさめたと見えて、又みづぱなをすすりこみの、泣かねえばかりの声を出して
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「御冗談で、あつしは逆樣に振つたつて、水つぱなも出ない方で、あべこべに文字花にみつがれた口ですよ」
ただ、正月なので、広い台所の板敷の隅っこで、ほかの下男たちと共に、みずぱなをすすりながら、あわの雑煮餅を、めずらしく喰べただけだった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十月の素袷すあわせ平手ひらてで水っぱなで上げながら、突っかけ草履、前鼻緒がゆるんで、左の親指が少しまむしにはなっているものの、十手じってを後ろ腰に、刷毛先はけさきいぬいの方を向いて、とにもかくにも
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あの野郎はみづぱなをすすりこんぢや、やれ府中で土蔵を破つたの、やれ日野宿でつけ火をしたの、やれ厚木街道の山の中で巡礼の女をなぐさんだの、だんだん途方も無え悪事を饒舌しやべり立てたが
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
魚の骨みたいに体には肉がないし、しじゅう水ッぱなはすすっているし、無精ぶしょうで、うす汚いこと、仕事場のうるしベラや、の土や、漆茶碗などと見分けのつかない程である。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十月の素袷すあはせ、平手で水つぱなを撫で上げ乍ら、突つかけ草履、前鼻緒がゆるんで、左の親指が少しまむしにはなつて居るものゝ、十手を後ろ腰に、刷毛先はけさきいぬゐの方を向いて、兎にも角にも、馬鹿な威勢です。
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
水ッぱなをチュチュさせて、お客様のそばへ寄るとな、それ……お客様の鮟鱇鍋あんこうなべがまずくならあ
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水ッぱなをすすりながら独り力み泣きに鼻づらを赤くして泣いた事もあった——などというはなしは、誰も清盛から二度三度は聞かされている筈だが、まるで遠い遠い昔ばなしの事でもあるように
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)