殺到さっとう)” の例文
簡単ならざるを得ぬ手紙の文言(なぜといえば、おびただしい要求がこの成功者、この信頼に値する者のもとへ、殺到さっとうしたからである)
薄暗い神殿しんでんの奥にひざまずいた時の冷やかな石の感触かんしょくや、そうした生々しい感覚の記憶の群が忘却ぼうきゃくふちから一時に蘇って、殺到さっとうして来た。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
また、人穴城では、いまの敗北をいかった呂宋兵衛るそんべえがこんどはみずから望楼ぼうろうをくだり、さらに精鋭せいえい野武士のぶし千人をすぐってあらしのごとく殺到さっとうした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女たちは金に殺到さっとうして、そのゴールデン・バットを強要した。金としては思うつぼだったろう。バット一本の懸け引きで、気に入った女たちを自由に奔弄ほんろうしていったのだ
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ドタドタと階段をおっこちて、事務所に殺到さっとう、事務員のひとが、呆気あっけにとられているか、笑っているのか見極みきわめもできぬ素早さで算盤をひったくり、次いで、階段を、大股おおまた
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
入浴は、みんなの帰りがおそかったので、夕食後になり、一時に殺到さっとうしたため、かなりこんだ。しかし、大河のおかげで、予期しなかった入浴ができたのを、みんなは心から喜んだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
妻児が呼ぶ頃は、夕立の中軍ちゅうぐんまさに殺到さっとうして、四囲あたりは真白いやみになった。電がピカリとする。らいが頭上で鳴る。ざあざあっと落ち来る太い雨に身の内たれぬ処もなく、ぐっと息が詰まる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
けたたましく叫び合ってどやどやと足音荒く殺到さっとうする気勢けはいが伝わりました。
吉之丞が立ちあがると、みなも立ちあがって一斉に上り口に殺到さっとうした。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
患者かんじゃが門前に殺到さっとうし、寸暇すんかもない有様ありさまとなってしまいました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
絶えず、上杉勢の殺到さっとうを頭に置いている人々は、すぐそう考えて、緊張したが、与五郎は、長い土塀の角を左へ曲がって、回向院の大門の扉を烈しく叩いていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隅田乙吉が屍体を守って中野の家へ帰ってゆくと、入れ違いに新聞社の一団が殺到さっとうして来た。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
目いろをかえた小商人こあきんどや百姓や大町人は、町年寄の家へ殺到さっとうした。だが、らちがあかないので、辻々にむらがり一団一団とかたまっては、札座ふだざ奉行の役所へ押しかけた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんとかして面会のチャンスをつかもうとする決死的訪問客は、入れかわり立ちかわり博士の地下室に殺到さっとうしたのであるが、博士は常に油断をせず、ついぞ彼等の前に姿を現したことがなかった。
糸染川いとぞめがわ神仙川しんせんがわ合流ごうりゅうするところで、熊蔵の一隊と一つになり、聖地せいちのごとき百合ゆり香花こうかみあらし、もうもうとしたちりをあげて、れいのつたのかけはしまで殺到さっとうした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さあ皆でかかれ、警官隊も来ているから、大丈夫だ」と声を聞きつけて、応援隊が飛びこんで来た。痣蟹は警官隊と聞くと舌打ちをして、入口に殺到さっとうした劇場の若者を押したおし、廊下へ飛びだした。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
咲耶子さくやこをてんぐるまにして引きあげてきた鐘巻一火かねまきいっかのあとをって、そこへ殺到さっとうした人々がある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わあッと、彼らは殺到さっとうした。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてそれに代る一陣の兵馬が、このときもう北山殿へ殺到さっとうしていたのであった。
捕吏、放免などの手ぬるさとは違って、殺到さっとうするやいな
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殺到さっとうした新田勢は
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)