おと)” の例文
しかれども富貴を得て、天が下の事一たびは此の人に一四五ざす。一四六任ずるものをはづかしめていのちおとすにて見れば、文武を兼ねしといふにもあらず。
でも、奥さん! 肉親の者が、命をおとした殆ど同じ自動車に、まだ一月も経つか経たないかに乗ると云ふことは、縁起だとか何とか云ふ問題以上ですね。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
〔譯〕惻隱そくいんの心へんすれば、民或はあいおぼれ身をおとす者有り。羞惡しうをの心偏すれば、民或は溝涜かうとく自經じけいする者有り。辭讓じじやうの心偏すれば、民或は奔亡ほんばう風狂ふうきやうする者有り。
色々の豆のために命をおとさないまでも色々な損害を甘受する人がなかなか多いように思われるのである。それをほめる人があれば笑う人があり怒る人があり嘆く人がある。
ピタゴラスと豆 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
所で遂には「きりしとほろ」も、あまりの重さに圧し伏されて、所詮しよせんはこの流沙河に命をおとすべいと覚悟したが、ふと耳にはいつて来たは、例の聞き慣れた四十雀の声ぢや。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
時は耶蘇暦千八百八十六年六月十三日のゆうべの七時、バワリア王ルウドヰヒ第二世は、湖水におぼれてせられしに、年老いたる侍医グッデンこれを救はむとて、共に命をおと
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それが可恐おそろしいから廃めると謂ふのぢやありません、ただしい事で争つておとす命ならば、して辞することは無いけれど、金銭づくの事でうらみを受けて、それゆゑに無法な目にふのは
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
また苟且かりそめの病に命を取られるようなもろい鍛錬のお方でもない、いわんや刀刃とうじんの難によって命をおとすことのあり得べきお方ではない、もし先生が死なれたとすれば、病難、剣難のほかの
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雪の難——荷担夫にかつぎふ、郵便配達の人たち、その昔は数多あまたの旅客も——これからさしかかって越えようとする峠路とうげみちで、しばしば命をおとしたのでありますから、いずれその霊を祭ったのであろう
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかも石にあらざる氏の素志は、決してころばすことは出来なかった。性急なる王は、忽ち怒を発して、氏を獄に投じたので、この絶世の法律家は、遂に貴重なる一命を囹圄れいごの中におとしてしまった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
かつ当時の一政変は政論をしてますます改革的方針に向かわしめたるものあり、十一年の中ごろ、時の政府に強大の権力を占め内閣の機軸たるところの一政事家は賊の兇手に罹りて生命をおとしたり。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
その気に染まる人また立所たちどころに命をおとさざるなし、道南鼠死行一篇を賦し、奇険怪偉、集中の冠たり、数日ならざるに道南またすなわち怪鼠病で死んだも奇だとある。確かに鼠がペストを伝えたのだ。
でも、奥さん! 肉親の者が、命をおとした殆ど同じ自動車に、まだ一月も経つか経たないかに乗ると云うことは、縁起だとか何とか云う問題以上ですね。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「さようでございまする。かつはまた先刻せんこくも申した通り、一かどの御用も勤まる侍にむざと命をおとさせたのは、何よりもかみへ対し奉り、申しわけのないことと思って居りまする。」
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ゆきなん——荷擔夫にかつぎふ郵便配達いうびんはいたつひとたち、むかし數多あまた旅客りよかくも——これからさしかゝつてえようとする峠路たうげみちで、屡々しば/\いのちおとしたのでありますから、いづれれいまつつたのであらう、と大空おほぞらくも
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
八島士奴美やしまじぬみがおとなしい若者になつた時、櫛名田姫はふと病にかかつて、一月ばかりの後に命をおとした。何人か妻があつたとは云へ、彼が彼自身のやうに愛してゐたのは、やはり彼女一人だけであつた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)