櫓下やぐらした)” の例文
「実はゆくりなくも、伊丹の城中で、同じ目的の下に入り込んでいた天蔵どのと、城内櫓下やぐらした獄舎ひとやの前で出会うたのでございました」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
櫓下やぐらしたへいって当時こちらで信さんと悠さんに深間のおねえさんはどなたでござんすか、——こうきけば猫の仔でも教えて呉れらあ、ざまあみやがれ
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
深川の櫓下やぐらしたに居たって、名前なめえはおしずさんと云って如才じょさいねえ女子あまっこよ、年は二十二だと云うが、口の利き様はうめえもんだ、旦那様が連れて来たゞが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この女は櫓下やぐらしたで叩込んだ古狸で、お芋の煮えたも御存じないやうな、二千二百石の殿樣を手玉に取るなんざ朝飯前だ
あり来たりの色恋をしたってつまらないよ、そんなこたあ、素人しろうとの箱入さんか、くましなところで、意気がった櫓下やぐらした羽織衆はおりしゅうにでもまかしておくんだね。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
櫓下やぐらしたで梅吉と言っていた時にゃあ一二度逢ったことがあるが、はだを見たなア、今朝がはじめてだ」
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あらためて、町奉行が、あまりの事に、櫓下やぐらした胡乱うろついた時と、同じやうなさまをして見せろ、とな、それも吟味ぎんみの手段とあつて、屑屋を立たせて、ざる背負しょはせて、しめたやうな手拭てぬぐいまでかぶらせた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
城内の神尾が屋敷あたりまでひそかに入り込んで夜のくるのを待ち、追手濠おうてぼり櫓下やぐらしたへ来て濠端の木蔭に身をひそませている時分に、思いがけなく、濠の中からムックと怪しい者が現われて来ました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
深川の芸者で姉は小川屋の小三こさんといい、または八丁堀櫓下やぐらしたの芸者となり、そのほかさまざまの生活をして、好き自由な日を暮しながら歌人としても相当に認められ、井上文雄いのうえふみおからまつの名を許され
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「先生、まだそればかりでは御座りません。昨夜ゆうべちょっと櫓下やぐらしたの方へ参りましたら、何でも近い中に御府内ごふないの岡場所は一ツ残らずお取払いになるとかいう騒ぎで、さすがの辰巳たつみも霜枯れ同様寂れきっておりやした。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
芸者なら、櫓下やぐらした——
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
林次といふのは兄貴ではなくて、櫓下やぐらしたに居る頃からの深間で、今では亭主も同樣です。あの子——徳松だつて、誰の子だかわかつたものぢやありません。
「うまくってやった。もうしめたものだ。この中には、櫓下やぐらしたで殺された柳橋のお半の小指がはいっているのだ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……あんなのを悪縁とでも言うのでしょうか、里春はもと櫓下やぐらしたの羽織で、春之助はるのすけといったら土州屋さんもご存じかも知れない。評判の高かったあの松葉屋まつばやの春之助のことです。
櫓下やぐらしたの河岸ッぷちです。——ゆうべ柳橋の五明庵ごめいあんというお茶屋から、妹をんだ侍があったそうです」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その上お内儀のお貞が内氣なのを良いことにして、近頃は町内に櫓下やぐらしたから這ひ出した、化猫ばけねこ見たいなお染といふめかけを圍つて、月の半分は其方へ泊るといふことですよ」
そうして、櫓下やぐらしたのお半殺しが、江戸の町に喧伝けんでんされて、まだ噂も消えない四日目の黄昏たそがれ頃である。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お妾のお若といふのは、櫓下やぐらしたで鳴らしたしたゝか者で、引拔くと尻尾が九本えてゐる代物ですよ。
「お庭づたいに、ずっと北の方へ降りて、お櫓下やぐらしたのうしろを通り、天神池のほうへ行ってごらん」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晝三ちうさんの太夫なんて贅は望まないが、せめて金猫銀猫とか、櫓下やぐらしたへ行くでもとか——
と決行を計って、かねて目をつけておいた櫓下やぐらした大牢おおろうの外へ這いよってゆくと、そこに番人とも見えぬ男が、やはり自分のように忍びよって、しきりに牢内をうかがっている。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昼三ちゅうさん太夫たゆうなんてぜいは望まないが、せめて金猫銀猫とか、櫓下やぐらしたへ行くでもとか——
櫓下やぐらした大隅屋おおすみやへ商いに行って、茶ばなしに聞いていた話なのであるが——
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
櫓下やぐらしたの化猫で、二年ほど前から主人の小左衞門に喰ひ付き、こゝへノメノメと入り込んださうですが、浮氣で嘘つきで、金費ひが荒くて口やかましいから、さすがの主人も近頃では持て餘して
重層じゅうそうから櫓下やぐらしたまで落ちて微塵みじんとなる五体を、咄嗟、猫足のごとく納めたかと思いますと、日本左衛門の影は風を割ッて、扇廂おうぎびさしの腕木から天守番役所の屋根の一端へと、ヒラリと躍っておりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
櫓下やぐらした八幡はちまんや、深川のの空は、今を潮時しおどきにぞめいていた。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)