きわめ)” の例文
確かな学説と実験とに立脚した鮮明な政見を持っている場合はきわめて稀なのですから、これを二氏に望むことは気の毒にも感ぜられますが
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
当局者というと、当世では少々恐ろしいものに聞えるが、ここで局に当っている老人と若者とは、どちらもきわめてのん気な容貌をしている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
浮世絵師の伝記を調べたる人は国芳がきわめ伝法肌でんぽうはだ江戸児えどっこたる事を知れり。この図の如きはまことによくその性情を示したる山水画にあらずや。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
奥方がしっかりしているので持っている——そのきわめはいよいよ本格的となって、今日までも動かせないでいるのだが、果して、それが無条件でそのまま受取れるか。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
またこういう事も有る※ふと気がかわって、今こう零落していながら、この様な薬袋やくたいも無い事にかかずらッていたずらに日を送るをきわめのように思われ、もうお勢の事は思うまいと
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
貸したる二階は二間にして六畳と四畳半、別に五畳余りの物置ありて、月一円のきわめなり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて納豆売が来た。余の家の南側は小路にはなって居るが、もと加賀の別邸内であるのでこの小路も行きどまりであるところから、豆腐売りでさえこの裏路へ来る事はきわめて少ないのである。
九月十四日の朝 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
自分は小供の時から母に馴染なじまなんだ。母も自分にはきわめて情が薄かった。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
襟足えりあしを見せるところに媚態がある。喜田川守貞きたがわもりさだの『近世風俗志』に「首筋に白粉ぬること一本足とつて、際立きわだたす」といい、また特に遊女、町芸者の白粉について「くびきわめて濃粧す」といっている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
『霊枢』の如きも「不精則不正当人言亦人人異せいならざればすなわちせいとうたらずじんげんまたじんじんことなる」の文中、抽斎が正当を連文れんぶんとなしたのを賞してある。抽斎の説には発明きわめて多く、かくの如き類はその一斑いっぱんに過ぎない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
昇はまた頗る愛嬌あいきょうに富でいて、きわめて世辞がよい。ことに初対面の人にはチヤホヤもまた一段で、婦人にもあれ老人にもあれ、それ相応に調子を合せて曾てそらすという事なし。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
京大阪の酒という酒を飲み抜いて、道庵先生御推賞、日本一というきわめをつけて帰りてえものだ
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それだから金井君の為めには、作者が悲しいとか悲壮なとかいうつもりで書いているものが、きわめ滑稽こっけいに感ぜられたり、作者が滑稽の積で書いているものが、かえって悲しかったりする。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これだけの事を完成するのは、きわめて容易だと思うと、もうその平明な、小ざっぱりした記載を目の前に見るような気がする。それが済んだら、安心して歴史に取り掛られるだろう。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
徳川幕府では、寛政のはじめに、仁和寺にんなじ文庫本を謄写せしめて、これを躋寿館に蔵せしめたが、この本は脱簡がきわめて多かった。そこで半井氏の本を獲ようとしてしばしば命を伝えたらしい。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
五百は轎を出る女を見て驚いた。身のたけきわめて小さく、色は黒く鼻は低い。その上口がとがって歯が出ている。五百は貞固を顧みた。貞固は苦笑にがわらをして、「おあねえさん、あれが花よめですぜ」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これまでは玄機の挙措が意に満たぬ時、陳は寡言になったり、または全く口をつぐんでいたりしたのに、今は陳がそう云う時、多く緑翹と語った。その上そう云う時の陳のことばきわめて温和である。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
雑誌の肖像で見た通りの形装ぎょうそうである。顔はきわめて白く、くちびるは極て赤い。どうも薄化粧をしているらしい。それと並んでしぼりの湯帷子を著た、五十歳位に見える婆あさんが三味線をかかえて控えている。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)