だて)” の例文
「そんなうしろだてがあるのにこういうことになったとすると」津川はそう云いかけたが、そこでなにかを暗示するように笑った
役者はそちひとりじゃが、うしろだてにはこの兄がおる。京弥もついておる。それからここにお在での風変りなおじい様も控えておられる。
旗本の山田新右衛門、近習の島田左京、沢田長門ながとなど、四、五名は義元の身を、八方だてのように囲んで、とばりから次の幕へと、急を避けた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「相濟みません。でも、あの女には怖い後ろだてが附いて居ますし、——人の稼業の邪魔をしちや惡いと思ひましてね、へエ」
「奥さんもよかったですね。北村さんのようなうしろだてができて、かえってお仕合しあわせでしょう」
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし全国人民の後ろだてなしに、そんな力がかつぎ出せるものか、どうか。なるほど、不平のやりどころのない士族はそれで納まるかもしれないが、百姓や町人はどうなろう。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こういう大大名おおだいみょうのうしろだてを持っている彼らのかたき討よりも、無名の匹夫ひっぷ匹婦ひっぷのかたき討には幾層倍いくそうばい艱難辛苦かんなんしんくが伴っていることと察しられるが、舞台の小さいものは伝わらない。
かたき討雑感 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし知行の多寡たかはもちろん、高家筆頭なぞという地位も表面の格式だけで、かつては百二十万石の雄藩、謙信入道の直系である東北の雄藩上杉と、九州の名門島津をうしろだてとして
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
そこで、梨の木を一本、後ろだてに取って、袋をかこい、わだかまった米友は、例の手練の杖槍を取って、淡路流に魚鱗の構えを見せるかと思うと、そうでなく、後ろにかこった金の袋の結び目へ手をかけて
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小山は近づいてくる兵士達が、自分のうしろだてだと意識した。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「いえこの私にこそ力強い後ろだてができましてござります」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そんな馬鹿げたうしだてにはなりますまい。阿波は松平の御姓おんせいを賜わり、代々よよ、将軍のお名の一字をいただくほどな家筋じゃ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
好い男の若旦那を達引たてひかうといふのが、男も女も事を缺かない筈。庄司家の身上しんしやうが後ろだてになつて居るから、少しもとを入れても損のしつこはない
秋沢さまでもうしろだてになろうと仰しゃっておいでですわ、お姉さま、みちはすぐ前にひらけていますのよ、手を伸ばしておつかみになればいいのですわ
日本婦道記:風鈴 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
道場主番五郎のうしろだてにちょッと気になるお方がおいでのようでごぜえますゆえ、うっかり乗り込んで参りましたら、いかな早乙女の御前様でも事が面倒になりやしねえかと思うんでごぜえます
加うるに会津のような勢力があって終始その後ろだてとなっている。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また、一致したと見せても、俺にはまちがえば別に他の後ろだてはあるぞ、という虚勢をその一致者へほのめかしておく。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おめえたちが夫婦になるまで、どんな人間にもちょっかいを出させねえって、きざなようだが、おれたちは二人のうしろだてになったつもりでいたんだ」
源蔵ヶ原 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いや、そち達に頼まれいでも、大公儀にとって由々ゆゆしい問題じゃ。必ずこの上ともに、輝高をうしろだてと思うがよい。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「一ノ関といううしろだてがあってもですか」新左衛門はそう云って、きらっと眼を光らせた。
本多侯がうしろだてになっていたし、松代藩のほうでもまた、躍起になって、戸狩の者をべんたつしていた。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この土地で護国寺の役僧がうしろだてになっていれば、それだけでも理が非に勝たない。
「ばかとは何だ。さては李家の伯父も、欲にかかって、いつのまにか、ぬすっとたちの後ろだてに廻ったな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「けれどもそれは愛情でもなんでもありゃあしない、ごひいきと芸人のつきあいというだけなんです、貴女だっておよそ察しているだろうけれど、芸人はごひいきのうしろだてと、引立てがなければやってはゆけません」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
其方のうしだてに助勢致させようかと、折入って仙石殿からのご好意、び寄せたものであろうかどうじゃ
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第一に、吾々たちに御当家といううしだてのあることを観破した者は、江戸方の隠密甲賀世阿弥よあみ。これは、御本国剣山つるぎさん山牢やまろうに、終身押しこめてありますゆえまず安心。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楊修のうしろだてがあったので長男の曹丕そうひよりは、何事にまれすぐれて見えたが、やがて自分こそ、当然、太子たらんとしている曹丕は、心中大いに面白くなく、事ごとに楊修を父にざんしていた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)