梅暦うめごよみ)” の例文
大抵津藤さんは人の対話の内に潜んでいて形を現さない。それがめずらしく形を現したのは、梅暦うめごよみ千藤ちとうである。千葉の藤兵衛である。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
同時にまた、教科書の間に隠した『梅暦うめごよみ』や小三こさん金五郎きんごろうの叙景文をばあたりに見る川筋の実景に対照させて喜んだ事も度々であった。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
中学時代の初期には「椿説弓張月ちんせつゆみはりづき」や「八犬伝はっけんでん」などを読んだ。田舎いなか親戚しんせきへ泊まっている間に「梅暦うめごよみ」をところどころ拾い読みした記憶がある。
読書の今昔 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
小倉庵おぐらあん長次の近くだった。梅暦うめごよみ挿絵さしえで見るようなはぎまがきで一軒家、家賃も安いし、近所も気楽である。そこへ、越してからすぐ札を出したのが
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
類聚るいじゅう』に出でし句と覚ゆれど、予のはじめこれを見て艶麗えんれいの感に堪へざりしは、春水しゅんすいの『梅暦うめごよみ』の中にありしなり。
俳句の初歩 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
みせは耶蘇教主義であるが、角谷は夜毎の家庭かてい祈祷会きとうかいなどに出るのをいやがって居た。彼の本箱には、梅暦うめごよみや日本訳のマウパッサン短篇集たんぺんしゅうが入って居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……でも、その稽古、師匠のほうからそう口を切ってくれただけで、その日は一日師匠の家にいたけれど、部屋へ閉じ籠って夢中で「梅暦うめごよみ」か何かに読み耽っているらしかった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
巽巳藝妓たつみげいしやきやんな名や、戲作者爲永春水ためながしゆんすゐ述るところの「梅暦うめごよみ」の色男丹治郎などは、つい先頃までの若者を羨ましがらせた代物しろものだ。その狹斜が生んだ、江戸末期的代表デカタンが丹治郎だ。
花火と大川端 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
長吉はふと近所の家の表札に中郷竹町なかのごうたけちょうと書いた町の名を読んだ。そして直様すぐさま、このごろに愛読した為永春水ためながしゅんすいの『梅暦うめごよみ』を思出した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自分が梅暦うめごよみの丹治郎のようであって、お蝶のような娘に慕われたら、愉快だろうというような心持が、始てこの頃きざした。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
作爲といへば爲永春水ためながしゆんすゐ梅暦うめごよみにも、小梅の茶屋で、逢曳する所があるね、そして約束の男の丹次郎がなか/\來ないのを、米八よねはちが獨りじれながら待つてゐる。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
長吉ちやうきちはふと近所の家の表札へうさつ中郷竹町なかのがうたけちやうと書いたまちの名を読んだ。そして直様すぐさまころに愛読した為永春水ためながしゆんすゐの「梅暦うめごよみ」を思出おもひだした。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
一 柳亭種彦りゅうていたねひこ田舎源氏いなかげんじ』の稿を起せしは文政ぶんせいの末なり。然ればそのよわい既に五十に達せり。為永春水ためながしゅんすいが『梅暦うめごよみ』を作りし時の齢を考ふるにまた相似たり。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
為永春水ためながしゅんすいの小説『梅暦うめごよみ』の続篇たる『辰巳たつみその』以下『梅見船うめみのふね』に至る幾十冊の挿絵は国直の描く処にして余は春水の述作とあわせて深くこの挿絵を愛す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
同じ江戸風と申しても薗八一中節そのはちいっちゅうぶしなぞやるには『梅暦うめごよみ』の挿絵に見るものよりは少し古風に行きたく春信はるのぶの絵本にあるやうな趣ふさはしきやに存ぜられ候。江戸趣味は万事天明てんめいぶりありがたし/\
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)