格子縞こうしじま)” の例文
ことしの晩秋、私は、格子縞こうしじまの鳥打帽をまぶかにかぶって、Kを訪れた。口笛を三度すると、Kは、裏木戸をそっとあけて、出て来る。
秋風記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
なお、正方形の碁盤縞が長方形に変じた場合は格子縞こうしじまとなる。格子縞はその細長さによってしばしば碁盤縞よりも「いき」である。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
派手はで格子縞こうしじまのスカートに、燃えるような緑色のセーターを着ていた。小柄で、すんなりしていて、三十歳にしては三つ四つも若く見えた。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その癖くびのまわりには、白と黒と格子縞こうしじま派手はでなハンケチをまきつけて、むちかと思うような、寒竹かんちくの長い杖をちょいとわきの下へはさんでいる。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そう思うと、お前の顔容かおかたちから、不断よく着ていたあの赤っぽい銘仙めいせん格子縞こうしじまの羽織を着た姿がちらりと眼に浮んだ。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
椅子いすから格子縞こうしじま膝掛ひざかけを取る)これは飛びきり極上の羅紗ラシャでございます、これをお売りいたします……(振ってみせる)買いたい方はありませんか?
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ズボンはすっかり流行おくれの、思いきり明るい色をした格子縞こうしじまで、きわめて薄っぺらな地であった。
と云って、背中の子はたしかに自分の子に違ないと敬太郎は考えた。なおよく見ると前垂まえだれの下から格子縞こうしじまか何かの御召おめしが出ているので、敬太郎はますます変に思った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
湯もじにでもいいような赤い格子縞こうしじまのスカートをはいて、白サティンの大だぶだぶのブラウスを着て、つば広の帽子で額のしわを隠すような妙な小細工はきんはきらいだった。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
三学年担任の茶いろの狐の先生は、うやうやしく礼をして出て行きました。間もなく青い格子縞こうしじまの短い上着を着た狐の生徒が、今の先生のうしろについてすごすごと入って参りました。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
同島南海岸を逍遥しょうよう中、海浜より七、八メートル離れた這松はいまつの根元に、四十五、六歳ぐらいのねず背広、格子縞こうしじま外套オーバアーの紳士がくれないに染んで倒れ、さらに北方十二メートルのところに
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
派手な格子縞こうしじまの浴衣に兵児帯へこおびを捲きつけて、麦稈帽むぎわらぼう阿弥陀あみだにしながら、細いステッキを振り振りチョコチョコと奥さんの尻をうて行くところは、如何にも好人物らしかった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
谷は、ますます迫って来る。手を伸し合う針葉樹は、格子縞こうしじまを、虚空に組み合せている。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
オレンジ色に縁どった空色の上着、青い格子縞こうしじまの入った臙脂えんじのスカート、素足に靴をはいた少女が、恐怖に青ざめた顔で、眼を大きく見ひらき、ふるえながら息を殺しているのだった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
赤と緑の格子縞こうしじまの木綿の前掛けを青いひもで帯の所にゆわえ、同じ布の胸当てを上の両端で二本の留め針でとめ、足にはマルセイユの女のように大きな靴と黄いろい靴下をはいていた。
正直一轍の吝嗇漢けちんぼが一度けがした墓をまた堀返しつつあるのを見かけたのであった、格子縞こうしじまのスコッチラシャを頸のまわりで山風やまかぜにひるがえしながら、そしてジミな絹帽を頭上にいただいて。
黒っぽい地色に、三十六、七の女でも着るような柄のわるい地味な格子縞こうしじまであった。それを見て私はがっかりした。けれど表面うわべではやはり「ありがとう」というお礼を言わなければならなかった。
おそらくは英吉利旦那イギリスマスターの着古しであろうぼろぼろのシャツのすそ格子縞こうしじま腰巻サアロンの上へ垂らして、あたまをシイニョンに結い上げて、板きれへ革緒かわおをすげた印度インド履き物を素足すあしで踏んで、例の移動椅子いすに腰かけて
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼のような男は、七十歳になっても、八十歳になっても、やはり派手な格子縞こうしじまのハンチングなど、かぶりたがるのではないでしょうか。
おしゃれ童子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しっとりとした容姿すがたをして、なりもつくろわず、不断着の茶っぽい、だんだらの銘仙めいせん格子縞こうしじま袷衣あわせを着て、形のくずれた銀杏返いちょうがえしのびんのほつれ毛をで付けもせず
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
広間で、灰色のシルクハットに格子縞こうしじまのズボンをはいた人物が、両手を振ったり跳ねあがったりする。「ブラヴォー、シャルロッタさん、大出来、シャルロッタさん!」
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
シャール十世の即位式に列した武官の帽子にかなり似寄った羽のついた黒い帽をかぶり、メリヤスの裳衣の上に格子縞こうしじまの大きな肩掛けを引っかけ、その朝娘がいやがった男のくつをはいていた。
ばかに派手な格子縞こうしじまのハンチングであるが、先生には少しも似合わない。私は見かねて、およしになったらどうですか、と失礼を
黄村先生言行録 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いよいよ役者の真似である。洋服も、えりが広くおそろしく派手な格子縞こうしじまであって、ズボンは、あくまでも長く、首から下は、すぐズボンの観がある。
座興に非ず (新字新仮名) / 太宰治(著)
派手な格子縞こうしじまの鳥打帽であるが、ひどく古びている。けれども、これをかぶらないと散歩の気分が出ないのである。四十年間、愛用している。これをかぶって、銀座に出る。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)