柄糸つかいと)” の例文
旧字:柄絲
重い刀剣類を朝からいじくり廻したため、手の平のあぶらが柄糸つかいとに吸い取られ、かさかさしているほど、目も疲れ込んでいた。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「拙者のは此通り此處にある。中身は無銘むめいの相州物、目貫めぬきは赤銅と金で牡丹ぼたん柄糸つかいとは少し汚れたがそつくり其儘だらう」
六角の象嵌鍔ぞうがんつばあいよりの柄糸つかいと、めぬきは四代光乗こうじょうが作らしく、観世水かんぜみず若鮎わかあゆめこまれ、柳しぼりのさやごしらえ、なんともいえない品格がある。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて帯びている大小であるが、さやは黒塗りで柄糸つかいとは茶で、つば黄金こがね象眼ぞうがんでもあるのか、陽を受けて時々カッと光る。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
京で名高い柄糸つかいとを売る鼠屋に紛らわして栗鼠りす屋と名乗る店が出た事あり(宝永六年板『子孫大黒柱』四)。
それから廿日正月までに、おさやぬりから柄糸つかいとを巻上げますのは間に合いますと、そこは酔っていても商売ゆえ、後藤祐乘ごとうゆうじょうの作にて縁頭ふちがしら赤銅斜子しゃくどうなゝこに金の二ひきのくるい獅子の一輪牡丹
手柄てつかの鮫のぽつぽつした表面や、×かけじるしに結んだ柄糸つかいとの強い紺の高まりなどを、よく父の顔を見ていると、なにかしら関聯されて思い浮ぶのであった。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
でも大小は帯びていた。といって名ばかりの大小で、柄糸つかいとはゆるくほぐれているし、鞘の塗りなどもはげていた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その手とその胸との間には、汗くさい武者修行風呂敷と、柄糸つかいとの腐っているような重い大小がかかえられている。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはやくざ者などが好んで持つて歩く新刀物のそりのない長脇差で、柄糸つかいとなどは朱を塗つたやうに血に浸り、紫色に曇つた刀身などまことに物凄い限りです。
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
柄糸つかいと濃茶こいちゃでございます、つばは伏見の金家かねいえの作で山水につりをしてる人物が出て居ります、鞘は蝋色ろいろでございまして、小柄こづかは浪人中困りまして払いましたが、中身は彦四郎貞宗でございます
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うろたえているお芳へ、あごを横に振って、幾たびも刀の柄糸つかいとをしめしたが、だんだん胸の鼓動を感じていた。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……ほぐれぬように柄糸つかいとを巻き、刀のさびを落として置け。……二十挺の種ヶ島の筒口に、湿りをつけてはならないぞ。……鞍からあぶみからくつわまで、手落ちがあったら承知しねえ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蟠「柄糸つかいとも悪くもない、つば金家かねいえだ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ことに、その刀もただのとぎではなく、潮水浸しおびたしになったのを、さや柄糸つかいと拭上ぬぐいあげまですっかり手入れをしなおしたもので、宗理の手もとでも五十日ほどかかったという話。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刀の柄糸つかいとほつれを見つけて、それを気にしてつくろいだすと、いじればいじるほど解けて来て、果ては、しまつが悪くなったので、糸切歯をあててプツンとかみましたが
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
枕元には、白茶の柄糸つかいと赤銅しゃくどうごしらえという柳鞘やなぎざや了戒りょうかい一刀と、同じ作りで吉光の差しぞえ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刀の柄糸つかいとよじりぎみに、右手めては深く左手ゆんでは浅く、刀背みね蛇眼だがんをすえて寄る平入身ひらいりみ——。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ウム!」と据物斬すえものぎりの腰、息を含んで、右手は固く、刀の柄糸つかいとへ食い込んだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と考えた一角は、ヒラリと山門の外に身を寄せて、刀の柄糸つかいとへしめりをくれた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次第に近づいてくる竹のは、一味冷徹な鬼気を流してきて、そこに、つばぶるいをひそめる者、柄糸つかいとへ唇をつける者などの血汐をいよいよ惣毛立そうけだたせ、いよいよたけくジリジリとき騒がせる。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柄糸つかいとまで血によごれたものを武蔵に示して
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)