たな)” の例文
きしそばだちたる所は鮏きしにつきてのぼるものゆゑ、岸におくばかりのたなをかきて、こゝにこし魚楑なつちをさし鮏を掻探かきさぐりてすくひとるなり。
博士 若様はこの冊子と同じものを、瑪瑙めのうに青貝の蒔絵まきえの書棚、五百たな、御所有でいらせられまする次第であります。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふと見れば片側ののきにそひて、つたかずらからませたるたなありて、そのもとなる円卓まるづくえを囲みたるひとむれの客あり。こはこの「ホテル」に宿りたる人々なるべし。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
五足六足往くと、たなの上に鉄の梁があった。そのまわりは数尺であったが、それには一つの大きな輪を繋いであった。その大きさは幾百由旬ゆじゅんということが解らなかった。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その人嚢を脊負ひて、そのうちには十数頭の鼠を蓄へ置き、稠人のうちにて、木もて組める小なるたなを出して肩上に据うれば、そはやがて舞台なり。鼓板の音おもしろく、古囃劇を唱ふ。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
かたはらにある衣桁いかうには、紅梅萌黄こうばいもえぎ三衣さんえを打懸けて、めし移りに時ならぬ花を匂はせ、机の傍に据ゑ付けたる蒔繪のたなには、色々の歌集物語かしふものがたりを載せ、柱には一面の古鏡を掛けて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
門の内は白い石を石だたみにして、あかい花がその道をさしはさみ、それが入口の階段にちらちらと散っていた。西へ折れ曲ってまた一つの門をくぐると、豆のたなと花のたなとが庭一ぱいになっていた。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
しかるに絶壁ぜつへきの所は架を作るものもなければ鮏もよくあつまるゆゑ、かの男こゝにたなをつりおろし、一すぢのなはを命のつなとして鮏をとりけり。
陳はその庭を通って小さなちんそばへ往った。そこに鞦韆ぶらんこたながあったが、それは雲と同じ高さのもので、そのなわはひっそりと垂れていた。陳はそこで此所ここ閨閣おおおくに近い所ではないかと思った。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
これに心つきて持たるたいまつにてなほたしかに見れば、たなをくゝしたるいのちのつな焼残やけのこりてあり。