松蕈まつたけ)” の例文
吸物のふたを取ると走りの松蕈まつたけで、かうばしい匂がぷんと鼻にこたへる。給持きうぢ役僧やくそうは『如何どうだ』といつた風に眼で笑つて、してつた。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
たひ味噌汁みそしる人參にんじん、じやが、青豆あをまめとりわんたひ差味さしみ胡瓜きうり烏賊いかのもの。とり蒸燒むしやき松蕈まつたけたひ土瓶蒸どびんむしかうのもの。青菜あをな鹽漬しほづけ菓子くわしいちご
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鞠躬如きっきゅうじょとして審査の諸先生に松蕈まつたけなどを贈るとかのうわさも有之、その甲斐かいもなく三十年連続の落選という何の取りどころも無き奇態の人物に御座候えども
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
せっかくの巻狩に臨み太閤たいこう様の松蕈まつたけのごとく、または東京市内の釣堀のごとく、当日の獲物が一区の平地に飼い附けてあっては、狂言の大名ならばいざ知らず
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あるいは松蕈まつたけ汁とか、あるいは鯨汁とか、あるいは菜汁とか、つまり汁の実にすべき季節の物かもしくは遠来の珍味を得た時は、それだけでもって客をするのである。
伏見人形に思い出す事多く、祭り日ののぼり立並ぶ景色に松蕈まつたけ添えて画きし不折ふせつの筆など胸に浮びぬ。山科やましなを過ぎて竹藪ばかりの里に入る。左手の小高き岡の向うに大石内蔵助くらのすけの住家今に残れる由。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
殊に湯より上り來れば、虎の皮を敷き一閑張かんばりの大机を据ゑたる瀟洒なる一室には、九谷燒の徳利を載せたる午餐ひるげの膳既にならべられて、松蕈まつたけかぐはしき薫氣かほりはそこはかとなくあたりに滿てるにあらずや。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
……覗込んで何と言いますかと聞くと「霜こしや。」と言った。「ははあ、霜こし。」——十一月初旬で——松蕈まつたけはもとより、しめじの類にも時節はちと寒過ぎる。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あはは、松蕈まつたけなんぞは正七位の御前様ごぜんさまだ。にしきしとねで、のほんとして、お姫様をながめておるだ。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松蕈まつたけだとか、湿地茸しめじだとかおいいでなかったのもこの時ばかりで、そして顔の色をおかえなすったのもこの時ばかりで、それに小さな声でおっしゃったのもこの時ばかりだ。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)