木柵もくさく)” の例文
細っこい白い木柵もくさくに、あか薔薇ばらをからませた門がありました。石を畳みあげてそのうえにガラスを植えつけた塀がありました。
都の眼 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
早速街道両口の木柵もくさくを取り払わせ、上陸中の外国兵をそれぞれ軍艦に引き揚げさせ、なお、港内に抑留してあった諸藩の運送船をも解放した。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
コン吉とタヌが薔薇ロジェの木の花棚の下で待っていると、目もはるかな荘園に続く大きな木柵もくさくをあけて、皮の脚絆モレチエールをはき
一方その形もあるいは塁壁るいへきのように堅固な、または木柵もくさくのようなもろさを思わせるなど種種様様の味と感じを与える。
独り碁 (新字新仮名) / 中勘助(著)
油絵の風景画などでも、破れた木柵もくさく、果樹などの前景に雑草の乱れたような題材は今でもいちばんに心を引かれる。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と、竈場かまばの裏から隅田川の水際みずぎわに添って行くほどもなく、そこは、厳重な陣屋門じんやもんと言ってもいい材木屋の木柵もくさく
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで男は、豚を木柵もくさくにしつかりとしばりつけてをいて、肉切庖丁を、一生懸命に磨ぎ始めました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
本郷の追分を第一高等学校の木柵もくさくに沿うて東へ折れ、更に北へ曲る角が西教寺と云う寺である。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
なにがつて、こんなところになにわるいことでもした人間にんげんのやうに、だれをみても、かうしててつ格子かうしか、そうでなければ金網かなあみ木柵もくさく石室いしむろ板圍いたがこいなんどのなか閉込とぢこめられてさ
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
見ると、その営所を囲む木柵もくさくに多くの男女が集っていた。ワトソンが行くと、彼らはこの異邦人を恐れるように避けた。ワトソンは木柵に身を寄せながら営所の中を覗き込んだ。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こうした家々が、ところによっては野原のようにだだっぴろい通りとはてしもない木柵もくさくの間にぽつんぽつんと立っており、ところによっては蝟集かたまってごちゃごちゃと立てこんでいた。
が、風のように早い深谷を見失わないためには、腹這はらばってなぞ行けなかった。で、彼はとっさの間に、グラウンドに沿うて木柵もくさくによって仕切られている街道まで腹這いになって進んだ。
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
私は自分の目の前の空虚な教会の内側にいましも起りつつあるかのように想像をたくましくしたりしながら、いつまでもうつけたように教会の木柵もくさくにもたれかかっているようなことさえあった。
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
江戸名所不忍池の風致も馬場の木柵もくさくに囲まれ、大分問題になったが、同十一月に挙行、今の勧業協会の位置に、御殿造りの宏壮な馬見所、階上は貴賓室、発会式には行幸もあって未曾有の賑わい
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
かの校庭の木柵もくさくもと
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのうちの英国兵の一隊は進んで生田いくたたむろしている備前藩の兵士に戦いをいどんだ。三小隊ばかりの英国兵が市中に木柵もくさくを構えて戦闘準備を整えたのは、その時であった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、やぶれれば敗れるほど、強くなるのが甲軍の本質である。最初の猛襲に、ほとんど三分の一を失ったが、どうッ——と退くやいな再び新手の勢が木柵もくさくへ迫って来た。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここ数ヵ月、葫芦谷ころこくに入って、孔明の設計にかかるさい木柵もくさくなどの構築に当っていた馬岱ばたいは、ようやく既定工事の完了を遂げたとみえて、孔明の許へその報告に来ていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
塀といっても、古代の山城のように木柵もくさくいめぐらしてあるのである。しかし広さは何万坪あるか、山そのものの林石をありのままにとりれてあるのだからほとんど見当がつかない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)