旅衣たびごろも)” の例文
とつぶやいて、どこかに聞えるあわれっぽい鳩笛はとぶえに、なんとはなくなみだをさそわれて、あかじみた旅衣たびごろもそでに、思わずホロホロと涙をこぼした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人は名物と銘打った何やらかやらをやたらに並べ立てた店を両側に見て、停車場ステーションの方へ旅衣たびごろも七日なのか余りの足を旅心地に移す。出逢うは皆京の人である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すめらみの、おためとて、備前びぜん岡山を始めとし、数多あまたの国のますらおが、赤い心を墨で書き、国の重荷を背負いつつ、命は軽き旅衣たびごろも、親や妻子つまこを振り捨てて。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
文麻呂 人目を忍ぶ旅衣たびごろもと云う奴さ。でも、親父おやじ、あれで内心東国にはとても抱負があるらしいんだ。まあ、別れる時は割合に二人共さっぱりしてて、気が楽だったよ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
旅衣たびごろも夜寒むをいとへ国のため草の枕の露をはらひて」という、望東尼様の惜別の和歌に送られ、平野国臣様にともなわれ、もちろんわたしもお供をし、吉之助様のご消息の遅いのを案じ
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鑑定めきゝたりしろうあるじさそひにまかせ、此地このち活計たつきもとむとて親子おやこ三人みたり旅衣たびごろも、たちいでしは此譯このわけ、それよりおくなになれや、いまりようのあづかりをしてはゝ遊女ゆうぢよ仕立物したてものちゝ小格子こがうし書記しよきりぬ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
菖蒲重といふは、端午たんごの節句に着る着物なるべければ着つつなれしといふわけはないはずである。着つつなれしといへば無論ふだん着か旅衣たびごろもかの類で長く着て居るものでなければなるまい。同じ部に
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
旅衣たびごろもわゝくばかりに はるたけて、うばらがはなぞ、にほふなる
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
露けさの昔に似たる旅衣たびごろも田蓑たみのの島の名には隠れず
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ほこりにまみれた髪をき、旅衣たびごろもの腰紐を解いて、彼の前に坐った万野と鈴野の二人は
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旅衣たびごろもうべこそさゆれ。こまの くらたかねに、みゆきつもれり
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
また、あかじみた白木綿の旅衣たびごろも一枚で歩いていたあの頃の自分が眼に見えてくる。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かはるを聞けば旅衣たびごろも
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)