うつ)” の例文
両親並びて、五六歳の男児おのこの父の膝にりたるは、武男が幼きころの紀念なり。カビネの一人ひとりうつしの軍服なるは乃舅しゅうと片岡中将なり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
源氏の藤の裏葉を七枚程書いたところへ、画報社から写真をうつしに来た。七瀬と八峰が厭がつたから私とりんとだけで撮つて貰つた。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼はただ物の実相をうつすだけで充分だつた。もとより技術も未熟であつたが、芸術的な構図なども、凡そ眼中にないのである。
切れ目のはっきりした涼しい眼つきだけはうつされている男女に共通のものがあってこの土地の人の風貌を特色づけていた。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
けれども、おしまいまで何心なく見て行った伸子は、これだけの写真の数の中にゴーリキイの子供の時分をうつしたものは見なかったような気がした。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「本当とも。だから、戦地で態々わざわざ写真までうつして送ってやったじゃないか。それに、こんなに真黒になっちゃった」
兵士と女優 (新字新仮名) / 渡辺温オン・ワタナベ(著)
養狐場ようこじょうのほうへ行きかけると、すれちがった若い亜米利加娘アメリカむすめが二人、とつぜんぼく達を呼びとめ、ぼくの持っていたカメラでうつしてくれというのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
彼女が臨終七時間前にうつしたという「カルメン」の写真は、彼女の扮装ふんそうのうちでもうつくしい方であるが、心なしか見る目に寂しげな影が濃く出ている。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
表に人が立つと引っ張りの男がたちまち暖簾の陰から現われて「一枚お土産みやげにいかがさま、硝子うつし十五銭からお安く致しておきます。如何いかがさま如何さま」
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
「なんですって? これが問題の両地点の写真なのですか。どうしてこんな写真をうつすことが出来たのです」
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは山野の家族一同がそろってうつしたもので、大五郎氏を中心にして召使などもすっかり顔を並べていた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ロイド眼鏡めがね山羊やぎ髭、青白い顔までが、何んとなく思想家じみて、機密書類を盗みそうな人柄ではありませんが、同時に、花房一郎のうつした紫外光線写真の曲者とは
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
話は無い、話し度い事なんか何にも無いと云ふと、そんなら寫眞丈うつさせてくれと云ひ出した。
浦和の学校にいる美穂子の写真が机の抽斗ひきだしの奥にしまってあった。雪子といま一人きよ子という学校友だちと三人してうつした手札形で、美穂子は腰かけて花を持っていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
加けに口をあけて……U・Sの奴、その君の姿を面白がつて、うつしてしまはう/\! と云つて、今、大急ぎで、家へパテー・ベビーをとりに行つたところだよ。もう来る時分だ。
サンニー・サイド・ハウス (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
うつしてくれ。なに訳なく出来るよ。もうちゃんと仕掛けてあるんだから。是非頼む……
あやつり裁判 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
安成がこの写真をったらい記念だったろうに、惜しい事をした。(後に聞くと、それから大杉の自宅へ行って大杉夫妻を庭前でうつしたのだが、名人だから光線が入ったのだそうだ。)
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
待設まちもうけた雲が来た。若い手代の幸作、同じく嘉助のせがれの市太郎、皆なうつった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
禹徳淳 (続いて)写真をうつしておけばよかったなあ、君と僕と——。
「さあ、特別に頸飾りだけを、うつしたというものもねえ」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
独活畑に莨吸ひをるあのすがた春はのどかによううつしませ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
切れ目のはっきりしたすずしいつきだけはうつされている男女に共通のものがあってこの土地の人の風貌ふうぼうを特色づけていた。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ハハ。愚物には分らねえのさ。マ、写真をうつしてやるから、せいぜい良い顔を工夫するがいいね」
るいさんは眼のぱつちりした痩形の娘で、わたしの顔を見ると、写真をうつして呉れとか、を描いて呉れとかとせがんだ。棒縞のモンペを穿いてゐたが、夜になると赤い帯をしめて魚を焼いた。
湖の夢 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
うつす林檎の花は光れどもうつつならねば早やあはれなり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はじめは軽蔑けいべつした超然とした態度で、一人離れて、携帯のライカで景色などうつしていたが、にわかに柚木に慣れ慣れしくして、柚木の歓心を得ることにかけて
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
林忠彦は私と数年来の飲み仲間で、彼は銀座のルパンという酒場を事務所代りにしているから、そこで飲む私と自然カンタン相照らした次第で、このルパンでも、彼は四五枚、私をうつした筈である。
机と布団と女 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
携帯のライカで景色などうつしていたが、にわかに柚木に慣れ慣れしくして、柚木の歓心を得ることにかけて、芸妓たちに勝越そうとする態度を露骨に見せたりした。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)