挺身ていしん)” の例文
これは、この塾が地域共同社会の理想化に挺身ていしんする中堅ちゅうけん人物の養成ということにその主目標をおいていた自然の結果だったのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼のような無頼者ならずもののおやじでも、その子が危難へ向って挺身ていしんしてゆくのを見ると、狂気のような声を出さずにはいられない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日頃愛用していたライカアやレコオドを残らずたたこわし、いさぎよく征途に上ったものだったが、一ト月の後にはノモンハンで挺身ていしん奮闘してたおれてしまった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかしアンジョーラとマリユスと七、八人の者は、彼らのまわりに列を作り、挺身ていしんして彼らを保護していた。
手足てあしをぴち/\とねる、二歳ふたつぐらゐのをとこを、筋鐵すぢがねはひつたひだりうでに、わきはさんで、やんはりといたところは、挺身ていしんさかさまふちさぐつてどぢやう生捉いけどつたていえる。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大隅学士は勇敢にも、挺身ていしんして本館に向った。岩蔵は愕いて、学士を呼びかえすために両手をさしのばしたが、何と思ったものか、そのまま手を引込めてしまった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
先ごろ浅草の本願寺だかで浮浪者の救護に挺身ていしんし、浮浪者の敬慕を一身にあつめて救護所の所長におされていた学生が発疹はっしんチフスのために殉職したという話をきいた。
特攻隊に捧ぐ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
思えば思うほどひとり壁立万仭ばんじんの高さに挺身ていしんして行こうとする娘の健気けなげな姿が空中でまぼろしと浮び、娘の足掻あがく裳からはうら哀しいしずくが翁の胸にしたたって翁を苦しめた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一時は慷堂の先輩格として支那革命に挺身ていしんした悲堂も、のちには一介の支那メシ屋と化した。それを風化現象のように考えていたことが、悲堂を思い出させなかったにちがいない。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
やはり坊津の、山の上にある挺身ていしん監視隊長、谷中尉と言った。背が低い、がっしりした、眼の大きい男である。二十三四歳に見えた。先日、博多が空襲くうしゅうにあった際、博多武官府にいたと言う。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
心ある者よろしく挺身ていしん肉迫して叱咤しつた督励とくれいする所なかるべからず候。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
大海人皇子はすすんで難に挺身ていしんされたのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
人見の犠牲的な挺身ていしんも悲壮ではありますが、拙者はあくまで、老公のご意志を尊重してまいりたいのです。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
キューポラは爆発して熔鉄ようてつが五百メートル四方にとび散ったということです。この暴動の群衆の中に、奇怪なる人造人間ロボットが多数まじっていて、いずれも挺身ていしん破壊はかいに従事したということです。次に命令です。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、異様な声を発して、明智方から挺身ていしんして来る巨漢おおおとこがある。見るまに、彼の重そうな強槍は、中川隊の士を四、五名突ッかけて、左右にねとばし、なお此方へ奮迅ふんじんして来た。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)