手付てつき)” の例文
丸でをんな御白粉おしろいける時の手付てつきと一般であつた。実際彼は必要があれば、御白粉おしろいさへけかねぬ程に、肉体にほこりを置く人である。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「あ、まづ手付てつき……ああこぼれる、零れる! これは恐入つた。これだからつい余所よそで飲む気にもなりますとつて可い位のものだ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「おじさん、おそいねえ。あたい、ペコペコだよ。」と叱りつけるような鋭い調子で言ったが、爺さんは別に返事もせず、やはり退儀たいぎそうな、のろまな手付てつきで岡持のふたをあけ
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「貴方」とお種は夫の方を見て、「ちょっとまあ見てやって下さい。三吉がそこへ来て坐った様子は、どうしても父親おとっさんですよ……手付てつきなぞは兄弟中であれが一番く似てますよ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小藤次が、笑って、おどけた手付てつきをすると同時に、深雪も、笑った。自分で、突いたが、厚着のため、一寸、肌へ傷ついただけの疵が、それでも、安心すると痛んでいるのが、感じられてきた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そしておかしな手付てつきを——いや、狸ですから足付あしつきというのでしょうが、それをしますと、急に狸の姿が見えなくなって、後には椋の木の頑丈がんじょうな枝が、月の明るい空に黒く浮き出してるきりでした。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
女郎じょろう煙管きせるを持つような手付てつきをする、好かない奴。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きみの様に金回かねまはりがくないから、さう豪遊も出来ないが、交際つきあひだから仕方がないよ」と云つて、平岡は器用な手付てつきをして猪口ちよくくちけた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うちればかならふでを取つて書いて好者すきものと、巌谷いはやからうはさの有つたその人で、はじめて社にとはれた時は紺羅紗こんらしや古羽織ふるばおり托鉢僧たくはつそうのやうな大笠おほがさかぶつて、六歩ろつぱうむやうな手付てつきをして振込ふりこんで来たのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かくの如き日本の婦女日常の動作を描かんとするや筆力を主とする簡勁かんけいなる手法にのみ拠るべきものならず、極力きょくりょく実地の写生に基き各種の動作に伴ふ見馴みなれたる手付てつき姿勢態度を研究せざるべからず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
奥様は男を突退つきのけるすきも無いので、身をそらして、蒼青まっさおに御成なさいました。歯医者は、もう仰天してしまって、周章あわてて左の手で奥様のあごを押えながら、右の手で虫歯を抜くという手付てつきをなさいました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いったんこの道にはいるとなかなか出られませんと一人で茶を注いで妙な手付てつきをして飲んでいる。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)