心中しんちゅう)” の例文
ただうろついている。源四郎はもとより悪気わるぎのある男ではない。祖母の態度たいど不平ふへいがあるでもなく、お政の心中しんちゅうを思いやる働きもない。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
晋齋も心中しんちゅうを察していると見え、心持がわるくば寝るがいゝと許しますので、お若はとこをとって夜着よぎ引っ被りましたが、何うして眠られましょう
それを思うても眠られぬし、また、日陰ひかげてきのいましめをうけておわす、大殿おおとののご心中しんちゅうを思うても、なかなか安閑あんかんとねている場合ではございませぬ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
N女史の前に坐った作者の心中しんちゅうにかくされていた妄想もうそうが反映したのに過ぎないとも云えないこともないのである。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これらの確信が余の心中しんちゅうに定まりたればこそ余は意を決して余の祖先伝来の習慣と宗教とを脱し新宗教にりしなり、余は心霊の自由を得んがために基督教に帰依せり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
さてまたかんがえればかんがうるほどまよって、心中しんちゅうはいよいよ苦悶くもんと、恐怖きょうふとにあっしられる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
或は他人の心中しんちゅう持物もちもの看破かんぱするなど、あらゆる奇怪事を行うことが出来る。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
花前はかえって人のいつわりおおきにあきれて、ほとんど世人せじん眼中がんちゅうにおかなく、心中しんちゅうに自分らをまで侮蔑ぶべつしつくしてるのじゃないかとも思われる。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
よって私は突然いきなり女ども両人を切らば、二人の奴らが逃げるであろうとう思いまして、心中しんちゅう手順をさだめ、塀より下り立ち、先ず庭に涼んで居りました村と婆をうしろへ引倒し
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かれはハバトフが昨日きのうのことはおくびにもさず、かつにもけていぬような様子ようすて、心中しんちゅう一方ひとかたならず感謝かんしゃした。こんな非文明的ひぶんめいてき人間にんげんから、かかる思遣おもいやりをけようとは、まった意外いがいであったので。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ひややかなまま母、思いやりのない夫、家の人びとのあまりにすげなきしぶりを気づいては、お政は心中しんちゅう惑乱わくらんしてほとんど昏倒こんとうせんばかりにかなしい。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
老人ろうじんは、なにごとものみこんでいるから、お政の心中しんちゅうさっし、なみだかべてむすめをさとすのである。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
花前はときどきあたまを動かすだけで一ごんもものをいわない。技師先生心中しんちゅう非常に激高げっこう、なお二言三言、いっそう権柄けんぺい命令めいれいしたけれど、花前のことだから冷然れいぜんとして相手あいてにならない。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)