御上おかみ)” の例文
「返礼には伊豆ほとほと持余もてあましてりまする。恐れながらこれは御上おかみへお願ひ申し上げますよりほかに致し方も御座りますまい。」
ところが人間万事塞翁さいおうの馬、七転ななころ八起やおき、弱り目にたたり目で、ついこの秘密が露見に及んでついに御上おかみ御法度ごはっとを破ったと云うところで
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「シテ、その小笠原金三郎とやら申す浪人の所持致す脇差に就て、御上おかみには御心覚えあらせられるかあらせられぬか。一応御伺い致されたか」
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
さかいまちにてき父ほど天子様を思ひ、御上おかみの御用に自分を忘れし商家のあるじはなかりしに候。弟がうちへは手紙ださぬ心づよさにも、亡き父のおもかげ思はれ候。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それらの諸先生に比べれば、従来予が官立学校教師として小説家を兼業する事が出来たのは、たしかに比類まれなる御上おかみの御待遇として、難有ありがたく感銘すべきものであらう。
入社の辞 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
御落胤ごらくいんと称して、確かな証拠品も所持致すよし、今、御上おかみへ、御覚おおぼえが御座りますか、と聞くと——」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
遂に、種ヶ島の短銃を担ぎだすもの、それから御上おかみの特別のおゆるしを得て、鉄砲組で攻めもした。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御上おかみ屋敷よりも御下屋敷の方が御奉公もずっと気楽でございます、万事が窮屈でありません。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
細工や片付け事は生れながら不器用で、御上おかみの御用のない日は、小原庄助さん見たいに朝湯に入つて、酒の代りに番茶を呑んで、氣の減るほど煙草ばかり吸つてゐるのでした。
上野さんの頭の中には、御上おかみのさる御一人が、まぐろを好ませたまうので、このような最上のものがあるとするなら、献上してみたいという考えがあったのではないかと思ったからである。
鮪を食う話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
一簡いっかん奉啓上候けいじょうそうろう余寒よかん未難去候得共いまださりがたくそうらえども益々御壮健恐悦至極きょうえつしごく奉存候ぞんじそうろう然者しかれば当屋敷御上おかみ始め重役の銘々少しも異状かわり無之これなく御安意可被下候ごあんいくださるべくそうろうついては昨年九月只今思いだし候ても誠に御気の毒に心得候御尊父を
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
御上おかみの沙汰としなれば、大抵の事は泣きの涙でも黙って通す。然し彼等が斯くするは、必しも御上に随喜ずいきの結果ではない。彼等が政府の命令に従うのは、彼等が強盗に金を出す様なものだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「当時御上おかみ御一体御強健に被為在候而あらせられそろて、且蘭科御療治御薬差上候事故、漢科之者御供不仕候共、御用之御間おんま不欠儀かけざるぎと奉存候得共、誠に万々一之御備に漢科之者御供被仰付候儀と奉存候。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
昔は御上おかみの御威光なら何でも出来た時代です。その次には御上の御威光でも出来ないものが出来てくる時代です。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それらの諸先生に比べれば、従来予が官立学校教師として小説家を兼業する事が出来たのは、確に比類稀ひるいまれなる御上おかみ御待遇ごたいぐうとして、難有く感銘すべきものであろう。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
御上おかみの都合にて、如何いかようにも左右されると、庶民に思い込ませるよりは、越前も失策した、然し、よく調べはしたと、庶民に思われる方が、司政者としては、まつりごとに忠なるものと、心得まする
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
御上おかみ向きの体裁を考えて小田原評定に時を過していたのです。
うちの人達は無事ですか、どこへ行きましたかと聞いたら、薪屋まきや御上おかみさんが、昨晩の十二時頃にがけくずれましたが、幸いにどなたも御怪我おけがはございません。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御上おかみ向の體裁を考へて小田原評定に時を過して居たのです。
いかに家老の勢でもこればかりはどうもならん。ところがこのせがれが幼少の頃から殿様の御相手をして成長したもので、非常に御上おかみの御気に入りでの、あなた。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新聞が商売であるごとく大学も商売である。新聞が下卑げびた商売であれば大学も下卑た商売である。ただ個人として営業しているのと、御上おかみで御営業になるのとの差けである。
入社の辞 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
通例のものならこの様子でたいていはわかるはずだが、この主人は当世の人間に似合わず、むやみに役人や警察をありがたがる癖がある。御上おかみの御威光となると非常に恐しいものと心得ている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)