幾箇いくつ)” の例文
S——町のはずれを流れている川をさかのぼって、重なり合った幾箇いくつかの山裾やますそ辿たどって行くと、じきにその温泉場の白壁やむねが目についた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
されど旅客の來りていこふものもなければか、店頭みせさきには白き繭の籠を幾箇いくつとなく並べられ、客を待てる準備よういは更に見えず。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
「下町には居るそうだが、この辺へ鈴屋が来るのは珍しいね。どんな品があるか、みんな見せておくれ、気に入りさえすれば、幾箇いくつでも買って上げるから」
丁度本堂仏殿の在りさうな位置のところに礎石が幾箇いくつともなく見えて、親切な雨が降る度に訪問するのであらう今も其訪問に接して感謝の嬉し涙を溢らせてゐるやうに
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この時、あなたの山の方から幾箇いくつ松明たいまつが狐火のように乱れて見えた。巡査の一隊は尋ねあぐんで、今や山を降って来たのであろう。くと見るより此方こなたの人々は口々に叫んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして幾箇いくつの橋を渡ツて幾度道を回ツたか知らぬが、ふいに、石か何かにつまづいて、よろ/\として、あぶなころびさうになるのを、辛而やつと踏止ふみとまツたが、それですツかりが覺めて了ツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
唇の厚い久さんは、やおら其方そちを向いて「炬火かね、炬火は幾箇いくつ拵えるだね?」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
蒲「それでは幾箇いくつで来るのだ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
峠の幾箇いくつもある寂しい山道を、お島は独りでてくてく歩いて行った。どこへ行っても人家があった。休み茶屋や居酒屋もあった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「下町には居るさうだが、この邊へ鈴屋が來るのは珍らしいね。どんな品があるか、皆な見せておくれ、氣に入りさへすれば、幾箇いくつでも買つて上げるから」
丁度ちょうど本堂仏殿のありそうな位置のところに礎石そせき幾箇いくつともなく見えて、親切な雨が降るたびに訪問するのであろう今もその訪問に接して感謝のうれし涙をあふらせているように
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「塩山へかね」と背負籠しよひかごかたはらの石の上に下して、腰を伸しながら、「塩山へは此処からまだ二里と言ひやすだ。あの向ふのでかい山の下にこまかい山が幾箇いくつとなく御座らつせう。その山中やまんなかだアに……」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
あっしゃ子供の時分から、こんな事が好きだったんですから、この外にまだ幾箇いくつも考えてるんですが、その中には一つ二つ成功するのが急度きっとありますよ」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
昼は賃仕事に肩の張るを休むる間なく、夜は宿中しゅくじゅう旅籠屋はたごやまわりて、元は穢多えたかも知れぬ客達きゃくだちにまでなぶられながらの花漬売はなづけうり帰途かえりは一日の苦労のかたまり銅貨幾箇いくつを酒にえて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ひさしかたぶきたるだいなる家屋の幾箇いくつとなく其道を挾みて立てる、旅亭の古看板の幾年月の塵埃ちりほこりに黒みてわづかに軒に認めらるゝ、かたはら際立きはだちて白く夏繭なつまゆの籠の日に光れる、驛のところどころ家屋途絶とだえて
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
そこには広い宴会席が二階にあって、下は漫々とした水のまわりに、様式に変化をもった小窓が幾箇いくつもあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
美事なグラジオラスの一はちを、通りの花屋から買って来て、庸三を顰蹙ひんしゅくせしめたものだが、お節句にはデパアトから幾箇いくつかの人形を買って来て、子供の雛壇ひなだんにぎわせたり
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ここにいる若い外人は大抵官省や会社に勤めている技師のようであったが、中には着いたばかりで、借家を捜すあいだの仮りの宿として、幾箇いくつかのトランクを持ち込んで来る新婚の夫婦もあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)