山王さんのう)” の例文
それから溜池橋ためいけばしを渡るともう日が暮れて、十五夜でしょう、まん丸な月が出て、それから山王さんのうのあの坂を上がるとちょうど桜花さくらの盛りで
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
二十四五歳かとも見える若い侍が麹町こうじまち山王さんのうの社頭の石段に立って、自分の頭の上に落ちかかって来るような花の雲を仰いだ。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
老樹鬱蒼として生茂おいしげ山王さんのう勝地しょうちは、その翠緑すいりょくを反映せしむべき麓の溜池あって初めて完全なる山水の妙趣を示すのである。
生れて間もない私が竜門りゅうもんの鯉を染め出した縮緬ちりめん初着うぶぎにつつまれ、まだ若々しい母の腕に抱かれて山王さんのうやしろの石段を登っているところがあるかと思うと
厄年と etc. (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
第十二号機は、大森おおもり山王さんのうの森へうち落された。第九号機は東京湾の波のもくずと消えてしまった。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
山王さんのうわきの日光修営奉行所の奥の奥、壁の厚い一間に、三人の人影が黙然もくねんと腕をこまぬいている。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
同夜、大塔ノ宮は、日吉ひえ山王さんのうの八王子に床几しょうぎをすすめ、弟宮の座主宗良も、同所に陣座して
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羽後うご男鹿おが半島では、北浦の山王さんのう様の神主竹内丹後の家に、先祖七代までの間、代々片目であったという伝説が残っています。この家の元祖竹内弥五郎は弓箭ゆみやの達人でありました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこの芸者、いけねえよ、その刷毛先はけさきをパラッと……こういう塩梅式あんべいしきに、鬼門をよけてパラッと散らして……そうだ、そう行って山王さんのうのお猿様が……と来なくっちゃ江戸前でねえ。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
是れでお瀧は茂之助へ面当つらあてしく、わざとつい一里と隔たぬ猿田村やえんだむら取附とりつきに山王さんのうさまの森が有ります、其の鎮守の正面むこうに空家が有りましたからこれを借り、葮簀張よしずばり掛茶店かけぢゃやを出し
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
明治十六年の夏、山王さんのう——麹町日枝ひえ神社の大祭のおりのことであった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
丘の隅にゃ、荒れたが、それ山王さんのうやしろがある。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山王さんのうの森などをあるきまわるのが常であった。
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これでもいさみの山王さんのう氏子うぢこだ。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
信州では雨宮あめみや山王さんのう様と、屋代やしろの山王様と同じ三月さるの日の申の刻に、村の境の橋の上に二つの神輿みこしが集って、共同の神事がありました。その橋の名を浜名の橋といっております。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
裏窓から西北のかた山王さんのう氷川ひかわの森が見えるので、冬のうち西北の富士おろしが吹きつづくと、崖の竹藪や庭のが物すごく騒ぎ立てる。窓の戸のみならず家屋を揺り動すこともある。
鐘の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
江戸以来の三大祭りといえば、麹町の山王さんのう、神田の明神みょうじん深川ふかがわの八幡として、ほとんど日本国じゅうに知られていたのであるが、その祭礼はむかしの姿をとどめないほどに衰えてしまった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お顔の赤い山王さんのうのお猿さん……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
山王さんのうまつりだ、子供こどもまつりだ。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)