寝殿しんでん)” の例文
つづいてそれがどっと雪崩なだれを打つときの声に変ります。わたくしはほとんどもう寝間着姿で、寝殿しんでんのお屋敷にじ登ったのでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
「お昼から西のたい——寝殿しんでんの左右にある対の屋の一つ——のお嬢様が来ていらっしって碁を打っていらっしゃるのです」
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
天皇のご寝殿しんでんも、変と同時に、炎にくるまれてはいたが、そこへ幕兵が駈けのぼって来るまでには、なお、お身支度やら何やらの、寸時のいとまが幸いにあった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは紀介様がもうだいぶお悪くなっていて、そしてそのなかでも大変ご気分のおよろしげに見える或る日のことでございました。昼下りのうららかな日のさす寝殿しんでんでいつになく
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その間に、寝殿しんでんは跡方もなくなり、庭の奥に植わっていた古い松の木もいつかられ、草ばかり生い茂って、いつのまにかむぐらのからみついた門などはもう開らかなくなっていた。
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
棚の厨子づしはとうの昔、米や青菜に変つてゐた。今では姫君のうちぎはかまも身についてゐる外は残らなかつた。乳母はき物に事を欠けば、立ち腐れになつた寝殿しんでんへ、板をぎに出かける位だつた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つづいてそれがどつと雪崩なだれを打つときの声に変ります。わたくしはほとんどもう寝間着姿で、寝殿しんでんのお屋敷にぢ登つたのでございます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
中央の寝殿しんでんはだれの住居すまいにも使わせずに、時々源氏が来て休息をしたり、客を招いたりする座敷にしておいた。
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
みかどは寝殿しんでんはしにおしとねをおかれ、はしの東に、二条ノ道平、堀河ノ大納言、春宮とうぐうノ大夫公宗きんむね、侍従ノ中納言公明きんめい御子左みこひだりノ為定などたくさんな衣冠が居ながれていた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寝殿しんでんのお焼跡のそこここにまだめらめらと炎の舌を上げてゐるのは、そのあたりへ飛び散つた書冊が新たなたきぎとなつたものでもございませう。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
あまりに急だと言って紀伊守がこぼすのを他の家従たちは耳に入れないで、寝殿しんでんの東向きの座敷を掃除そうじさせて主人へ提供させ、そこに宿泊の仕度したくができた。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
やかたは、中央の大きな母屋おもや寝殿しんでんとよび、また渡殿わたどのという長い廻廊かいろうづたいに、東と西とに対ノ屋が、わかれていた。そのほか、泉殿いずみどのとか、つり殿とかも、すべて中心のかくをめぐっている。
寝殿しんでんのお焼跡のそこここにまだめらめらと炎の舌を上げているのは、そのあたりへ飛び散った書冊が新たなたきぎとなったものでもございましょう。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
身をよろって来た張りあいもないほどである。——が、仙洞せんとうへ来てみると、武者所の一門はひらかれ、一殿でん遠侍とおざむらい、また、もる寝殿しんでんの灯など、常ならぬ気配はどこやらにある。
いて望まれて、この貴公子を取り散らした自身の部屋へ置いて行くことを済まなく思いながら、命婦が寝殿しんでんへ行ってみると、まだ格子こうしをおろさないで梅の花のにおう庭を女王はながめていた。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
火の手はたちまちに土御門の大路を越えて、あっと申す間もなく正親町おおぎまちめつくし、桃花坊は寝殿しんでんといわずお庭先といわず、黒煙りに包まれてしまいました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
ここは二条とみノ小路の旧皇居より一ばいまたお手狭である。正成が南庭なんてい寝殿しんでんをそこに仰いだとき、はや後醍醐は彼をみそなわして、この日特に、御簾みすを高くあげさせておいでになった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
盗人というようながむしゃらな連中も外見の貧弱さに愛想あいそをつかせて、ここだけは素通りにしてやって来なかったから、こんな野良藪のらやぶのような邸の中で、寝殿しんでんだけは昔通りの飾りつけがしてあった。
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
火の手はたちまちに土御門の大路を越えて、あつと申す間もなく正親町おおぎまちめつくし、桃花坊は寝殿しんでんといはずお庭先といはず、黒煙りに包まれてしまひました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
しかし釣殿といえ、寝殿しんでんといえ、こうもち古びているやかたは、洛外らくがいでもめずらしい。ただ、さすがに庭面にわもは、あるじのゆとりというものか、この自然をよく生かし、掃除そうじもとどいて清洒せいしゃである。
中央の寝殿しんでん女一にょいちみや、女三の宮が住んでおいでになるのであるが、そこの東の妻戸の口へ源氏はよりかかっていた。ふじはこの縁側と東の対の間の庭に咲いているので、格子は皆上げ渡されていた。
源氏物語:08 花宴 (新字新仮名) / 紫式部(著)