孟宗もうそう)” の例文
太い孟宗もうそうを十本あまりも途中から切り、上から鉄の棒で節を抜いて、大地に生えたままの生竹に、実に八千両という贋造小判を隠したのです。
真竹まだけ孟宗もうそうの類は、この地方には十分に成長しません。でも、細い竹のやぶがありまして、春先にはそこから細い竹の子が頭を持ち上げます。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それは知らないけれども、孟宗もうそうたけのこの話だの、王祥の寒鯉かんごいの話だの、子供の頃に聞いて僕たちは、その孝子たちを、本当に尊敬したものです。」
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
孟宗もうそうの根竹に梅花を彫った筆筒ふでづつの中に乱れさす長い孔雀くじゃくの尾は行燈あんどう火影ほかげ金光きんこう燦爛さんらんとして眼を射るばかり。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
低い砂丘のその松原は予想外に閑寂かんじゃくであった。松ヶ根のはぎむら、孟宗もうそうの影の映った萱家かややの黄いろい荒壁、はたの音、いかにも昔噺むかしばなしの中のひなびた村の日ざかりであった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
逕をめぐり垣に添いて、次第に奥深き処、孟宗もうそう竹藪たけやぶと、けやきの大樹あり。この蔭より山道をのぼる。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古川ふるかわの持っている田圃たんぼ井戸いどめてしりを持ち込まれた事もある。太い孟宗もうそうの節を抜いて、深く埋めた中から水がき出て、そこいらのいねにみずがかかる仕掛しかけであった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うちの孟宗もうそうでこんなタバコ入れをこしらえたから、などと見せにきて一時間二時間話しこむ。
青鬼の褌を洗う女 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
かたわらお父様は「沼のほとり」を読み、特に「孟宗もうそうの蔭」のなかの私が妙子を可愛がるところに打込んで 今度こそ私の心はきまった と事は一遍に落著らくちゃくしてしまった。世は様ざまだ。
結婚 (新字新仮名) / 中勘助(著)
この上にある端渓たんけいすずり蹲螭そんり文鎮ぶんちんひきの形をした銅の水差し、獅子しし牡丹ぼたんとを浮かせた青磁せいじ硯屏けんびょう、それかららんを刻んだ孟宗もうそう根竹ねたけの筆立て——そういう一切の文房具は、皆彼の創作の苦しみに
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幽麗ゆうれいなる孟宗もうそう竹林を象徴的に描いたる上下幕の前で演ぜられる。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
その代り昔の名残なごりの孟宗もうそうが中途に二本、上の方に三本ほどすっくりと立っている。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一体何というやぶだ、破竹か、孟宗もうそうか、寒竹か、あたまから火をつけて蒸焼にしてかじると、ちと乱だ。楊枝ようじでもむことか、割箸を横啣よこぐわえとやりゃあがって、喰い裂いちゃ吐出しまさ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孟宗もうそうの枝にるあの鳩と、私と、どちらがより多くの夢をもつであろうか。
小品四つ (新字新仮名) / 中勘助(著)
家の裏手には一面に、はや年を経た孟宗もうそうのひつそりとした林が深い。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
この上にある端渓たんけいすずり蹲螭そんちの文鎮、ひきの形をした銅の水差し、獅子と牡丹ぼたんとを浮かせた青磁せいじ硯屏けんびやう、それから蘭を刻んだ孟宗もうそうの根竹の筆立て——さう云ふ一切の文房具は、皆彼の創作の苦しみに
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
南は四日垣よつめがきに囲われた坪になって孟宗もうそうの木蔭に木の灯籠一つ。暮れぐれになると宿りにくる鳩が一羽。日あたりが悪くて冬はしみじみと寒いかわりに読書や瞑想にはうってつけのところだった。
独り碁 (新字新仮名) / 中勘助(著)