奮迅ふんじん)” の例文
その真っ赤な残光を庭一面に蹴散らし、踏み乱して、地に躍る細長い影とともに、剣妖丹下左膳、いまし奮迅ふんじんのはたらきを示している。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこで、海岸が暫く静まったが、やがて、すさまじい海鳴りがすると共に、果して大鯨が奮迅ふんじんの勢いで、波をきってやって来た。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふたりが、奮迅ふんじんするのを見、助右衛門の部下も、みな、小具足姿こぐそくすがたの身軽で、槍をふりこみ、長刀をかざし、おもてを冒して、逆攻さかぜめをくわせた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かのビンドラバンの大林の獣王なる幾千の大獅子の奮迅ふんじんしてゆる声もかくやあらんかと思わるるばかりであります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そこに理想主義の獅子しし奮迅ふんじんが在る。美しい無智が在る。私は、しばらく、この態度にろうと思っている。この態度は、しばしば、盲目に似ている。時には、滑稽でさえある。
女人創造 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かの鰲背ごうはいあつめて丘の如く、そのいきほひふせがんと為れど、触るれば払ひ、当ればひるがへり、長波のくところ滔々とうとうとして破らざる奮迅ふんじんの力は、両岸も為に震ひ、坤軸こんじくも為にとどろ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
筆に奮迅ふんじんの苦闘をあえてするかいなも、勇気もあるものの、ただの浮世の風波に堪え得ぬ花の如き少女、おお、我が恋人は今頃いかに、今宵こよいをいかに送るならんと空の彼方、見よ月に雲のかかり
前からふさがれる。横から襲われる。うしろから包まれる。それを蹴ちらし、突き伏せ、踏みこえ、奮迅ふんじんまた奮迅の果てなき血中行けっちゅうこうであった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
欝茂うつもせる大林すなわちタライ・ジャンガルを過ぎて汽車の紆曲うきょくすることは大蛇のごとく、汽関車の声は幾千の獅子の奮迅ふんじんもかくやと思われるほどで山谷を震動してのぼりました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
幸いに、どては低いし、凍っている田圃であったが、戦機をはずしてしまったことは勿論である。ふたたび堤の上へ出て見た時には、敵の影は獅子奮迅ふんじんに見えた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このところ、馬超が、つねにも増して、強いわけは、今や彼の立場は、進んでも敵、退いても敵、進退両難に陥っているためで、いわゆる捨身すてみ奮迅ふんじんだからです」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ですから茶道の御勉強にかかっても、桶狭間おけはざま長篠ながしのの戦場へ奮迅ふんじんしたあの心ぐみでやるのだと、いつかもおはなしがあったそうで、京の大黒庵だいこくあんも、驚き入っておりました
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陣笠じんがさ陣羽織じんばおりのいでたちで、堺奉行所さかいぶぎょうしょ提灯ちょうちんを片手に打ちふり、部下の捕手を激励げきれいしていた佐々木伊勢守ささきいせのかみへ、荒獅子あらじしのごとく奮迅ふんじんしてきたのは、かしらの、龍巻九郎右衛門たつまきくろうえもんであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、異様な声を発して、明智方から挺身ていしんして来る巨漢おおおとこがある。見るまに、彼の重そうな強槍は、中川隊の士を四、五名突ッかけて、左右にねとばし、なお此方へ奮迅ふんじんして来た。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの戦下手な公卿大将の千種殿さえ大国三ヵ所も受領したというのに、その人を扶けて、早くから中国のせいを狩り催し、六波羅攻めにも、獅子奮迅ふんじんのはたらきをした赤松勢がよ」
まなじりを決して陣頭に馬首を立て、奮迅ふんじんの勢いをもって進めば、魏の兵、乱れて打ちかかるものもなく、大刀一閃、夏侯淵が手もとにおどりかかって、首から肩にかけて真二つに斬って落した。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ、彼としても、おそらく遺憾なかろうことは、年来の宿将や家士たちに限っては、彼の恩顧おんこを裏切るなく、まったく捨身奮迅ふんじんの戦いをなし、涙ぐましき主従の義を示していたことだった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その兵のすがたを見た兵は、その敢然たる勇姿へわっと声を送り、後から後から負けじとじのぼる。そしてちてはまた繰り返し、墜ちては石垣にとりつき、奮迅ふんじんのまえには何ものもない。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
面々は先をきそって、その幕囲まくがこいへ奮迅ふんじんしていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まさに老獅子の奮迅ふんじんに似ていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)