喪家そうか)” の例文
原住民のほかに、喪家そうかいぬもいる、わが家の灯一つを見て、近所の犬が、朝晩台所へクンクン飢えた鼻をならして来る。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまり良家の飼犬でなくして、喪家そうかの野良犬であったからです。二つの野良犬が餓えて食を求めに来ました。生きている者は本能的に生存権を要求する。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
悪逆無慈悲の殺人鬼、その陶器師の面上に何んとも云えない寂しいもの——愛する主人を失った喪家そうかの犬のような寂しいものが一抹漂っているからであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「東門に人有り。そのひたいは堯に似、そのうなじは皐陶に類し、その肩は子産に類す。しかれども腰より以下は禹に及ばざること三寸。纍々るいるいとして喪家そうかいぬごとし。」
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その他肥えたるいのこあり、喪家そうかの犬のせたるあり。毛虫、芋虫、うじ百足むかで、続々として長蛇のごとし。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昨日きのう富家ふうかの門を守りて、くびに真鍮の輪をかけし身の、今日は喪家そうかとなりはてて、いぬるにとやなく食するに肉なく、は辻堂の床下ゆかしたに雨露をしのいで、無躾ぶしつけなる土豚もぐらに驚かされ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
電車は出来るだけ人をせて東西に走る。織るがごときちまたの中に喪家そうかの犬のごとく歩む二人は、免職になりたての属官と、堕落した青書生と見えるだろう。見えても仕方がない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは嵐の通過するのを辛抱づよく待っている喪家そうかの犬といった感じだった。
雨あがる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
柱はかたむきひさしは破れ、形容枯槁ここうして喪家そうかいぬの如く、ここらで金をかけて根本的にテコ入れしなきゃ、大変なことになりそうなのですが、そこはそれ誰の持ち家か判然はっきりしないものですから
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
とにかく、江戸の市中を、喰うものも喰わず、喪家そうかいぬのように、雪溶けの泥濘でいねいを蹴たててうろつき廻っていた。そして、その暮方に、憔悴しょうすいしきった顔をして、ぼんやり両国の橋のたもとへ出てきた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
ただまさに終生累々として喪家そうかを学ばざるべからず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
だが、彼の境遇は、ふたたび喪家そうかいぬのように、あてなく、職なく、彷徨さまようしかなかった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
累々るいるいとして喪家そうかの犬のごとし。いや宿のない犬ほど気の毒なものは実際ないよ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
では、わしが遠慮なく、列座の面々を月旦げったんするが、気を腐らしたもうなよ。——まず、荀彧には病を問わせ、喪家そうかひつぎとむらわしむべし。荀攸じゅんゆうには、墓を掃かせ、程昱ていいくには門の番をさせるがいい。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗助は喪家そうかの犬のごとく室中を退いた。後にれいを振る音がはげしく響いた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)