しわぶ)” の例文
しわぶき、がっしりした、脊低せいひく反身そりみで、仰いで、指を輪にして目に当てたと見えたのは、柄つきの片目金、拡大鏡をあてがったのである。
そこを通りかかった時、はからずも寒夜にしわぶく声を耳にした、それは橋の下あたりに泊っている舟人の咳であった、というのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
煙は花壇の上から蠅を追い散らした勢力よりも、更に数倍の力をもって、直接腐った肺臓を攻撃した。患者たちはしわぶき始めた。彼らの一回の咳は、一日の静養を掠奪する。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
耳をすますと、頼政のしわぶきが、庭木の奥の古いむねから聞えてくるほど、そこと母屋は近かった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ずっと前に源俊頼としよりの『散木奇歌集さんぼくきかしゅう』九に、内わたりに夜更けてあるきけるに、かたちよしといわれける人の打ち解けてしとしけるを聞きてしわぶきをしたりければ恥じて入りにけり
勿論、今までに幾人も通ったが、北の方からきこえて来るその足音がどうも待っているものであるらしく直覚されたので、半七はしわぶきの合図をすると、塀の横手からもその返事があった。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人も豚も鶏も蜥蜴とかげも、海も樹々も、しわぶき一つしない。
夾竹桃の家の女 (新字旧仮名) / 中島敦(著)
と、廊下に足音がし、襖の外でしわぶく声がし
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
障子の内にしわぶく声がした。
人面瘡物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
咽喉のどが狂って震えがあるので、えへん! としわぶいて、手巾ハンケチこすって、四辺あたりみまわしたが、湯も水も有るのでない、そこで
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人も豚も鶏も蜥蜴とかげも、海も樹々も、しわぶき一つしない。
主人は勿体らしくしわぶきして一同に声をかけた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しわぶきの中から苦しげに、源三位頼政げんざんみよりまさは云った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こんなこッちゃあかん。」と自からたしなめるがごとくつぶやいて、洋燈ランプを見て、再び机に向った時、が広いので灯も届かず、薄暗い古襖ふるぶすまの外にしわぶく声して
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
首垂うなだれたり、溜息ためいきをしたり、しわぶいたり、堅炭かたずみけた大火鉢に崩折くずおれてもたれたり、そうかと思うと欠伸あくびをする、老若の患者、薬取がひしと詰懸けている玄関を、へい、御免ねえ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と骨ばった、しかし細い指を、口にあてて、客僧は軽くしわぶいた。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)