なだ)” の例文
「神のお怒りでござります。神様が何かを怒らせられ飢餓を下されたのでござります。大事な宝を犠牲にえとして、お怒りをなだめずばなりますまい」
と山三郎は種々いろ/\なだめて、此の場は漸く穏かに納まりましたが、武士さむらいはこそっぱゆくなったと見えまして、夜中にこそ/\と立って仕舞った。
何かぶつくさ言っている母親をなだめているらしかったが、お島は台所で、それを聞くともなしに、耳を立てながら、自分の食器などを取出していた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
河野自身が『怪しからない事だ』と云うて、憤慨するところを、第三者の雄吉が、マアマアと云ってなだめるべき筈のものが、丸切まるっきりその反対になって居る。
神の如く弱し (新字新仮名) / 菊池寛(著)
チャンと軍令と云うものがあってしまりがついて居るから安心しなさいとしきりになだめて一寸ちょいとも手を触れないと云う一例でも、官軍の存外優しかったことが分る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今出すから、まア一先ひとまづ坐んなさいとなだめられて、兎に角再び席にいたが、前の酒を一息にあふつて
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
明白に他人に語ることの出来ない事由を以てなだめられて居たのであったが、それが即ち或望を持って居たゝめで、むしろ向うにその望を持たれてあると信じて居たゝめで
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
弟だって母にあいたいのであろう、それ故に門の前を通ったりしたのであろう、姉はそう考えると姉さんがすこし言いすぎたのね、気にかけないでくれと優しく言いなだめた。
童話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
殘して滊車はつれなくいでにけりこゝが風流だ此の失策が妙だとみづから慰むるは朝寐せし一人にて風流ごかしになだめられ滊車に乘おくれるが何が風流ぞと怒つたところで可笑をかしくもなければ我も苦笑ひして此方こなた
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
土方歳三はいたずらに気の立つ芹沢と近藤とをなだめて
帰るときには、お島のいらいらした感情が、すっかりなだめられていた。そして明日あしたから又初めての仕事に働くと云うことが、何かなし彼女のほこりそそった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
やゝもすれば柄に手を掛けてビンタ打切うちきるなどというがある、其の時山三郎は仲へ入って武士さむらいなだめ、それでも聞かんと直々じき/\奉行に面談致すなどというので
飲食しないからそのままてゝ置けば餓死する。ソコでいろ/\となだめて勧めたけれども何としても喰わない。うすると、不意としたことで、その病人が福澤先生にいたいと云うことをいい出した。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
文治は人に頼まれる時は白刃しらはの中へも飛び込んで双方をなだめ、黒白こくびゃくを付けて穏便おんびんはからいを致しまする勇気のある者ですが、母に心配をさせぬため喧嘩のけの字も申しませず
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)