ふか)” の例文
朝飯あさはん珈琲コーヒーもそこ/\に啜り終つて書齋の襖をあけると、ぼんやり天井を眺めて卷煙草を遠慮なしにふかして居た黒川は椅子から立ち
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
年頃としごろめで玉ひたる梅にさへ別れををしみたまひて「東風こちふかば匂ひをこせよ梅の花あるじなしとて春なわすれぞ」此梅つくしへとびたる事は挙世よのひとの知る処なり。
じっとりした往来には、荷車のきしみが静かなあたりに響いていた。徹宵よっぴて眠られなかったお島は、熱病患者のようにほてったほおを快い暁の風にふかれながら、野良道を急いだ。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
チョット失敬してキング・オブ・キングスの喇叭らっぱふかしてもらおう。ついでにハバナの方も一つ輪にふかして……オットット……これはしたり。吾輩はまだ教壇の前に居るんだっけね。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「然し自意識が発達すると云ふ事は、他人の間から自己を独立させると云ふ事になる、またとらはれた自分をいかさうと云ふ事にもなる。」と膳を押遣おしやつて、心静かに落着いて煙草をふかして居る。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
しばらくは沈着おちつき払って黙って長煙管ながぎせるふかしてたが、外ではないんですと云うのが口切で、親御さんがおいでの内は遠慮して居りましたが、今月で三月というもの入れて下さらぬのには困ります
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
湯の沸騰たぎるを待つ間は煙草をパクパクふかしていたが
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
高田は笑ましげに巻莨まきたばこふかして
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かぜふかれてゐるわいな。
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
年頃としごろめで玉ひたる梅にさへ別れををしみたまひて「東風こちふかば匂ひをこせよ梅の花あるじなしとて春なわすれぞ」此梅つくしへとびたる事は挙世よのひとの知る処なり。
かしらは悠然と煙をふかして
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かくてもあられねばなく/\焼残やけのこりたるつなをしるしにもち、くらにたいまつもなく雪荒ゆきあれふかれつゝなみだもこほるばかりにてなく/\立かへりしが、をつと死骸しがいさへ見えざりしと