ぎみ)” の例文
さては、ぐずり松平の御前とは、長沢松平ながさわまつだいらのお名で通る源七郎ぎみのことでござったか。いや、ますます面白うなって参ったぞ。
「でも、叔父ぎみは、そんな世間見ずではいけない。正行もはや十四、初陣ういじんもすべき年ごろなのに……と再三、母上へお手紙を下さいました」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに澤の井は其後漸くつきかさなり今はつゝむに包まれず或時あるとき母に向ひはづかしながら徳太郎ぎみ御胤おんたね宿やどしまゐらせ御内意ごないい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なぜと申せば、音に名高き大先生たるカピぎみが、鼻の先に口輪をかけておりましては、どうして不幸ふこうなるジョリクールが服すべき下剤げざいの調合を命ずることができましょう。
ういういしい花嫁ぎみの行く道には、祝いの花がまかれないで、のろいの手がひろげられていたのか、京都下加茂しもがもの北小路家へ迎えられるとほどもなく、男の子一人を産んで帰った。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
にやうやくにして歸りぬ。されど二人の賓客を伴へり、夫人は一聲アントニオと云ひしが、たちまち又調子をへてアントニオぎみと云ひつゝ、そのおごそかに落つきたる目を擧げて、夫と我とを見くらべたり。
箪食壺漿たんしこしょうの歓びに沸きたってはおるが、かんじんな相馬の大殿おおとの将門ぎみが、なんと、ややもすれば、お淋しそうな、お顔つきではあるまいか。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「源七郎ぎみにおわしまするか。土州にござります。いつもながら御健勝に渡らせられまして、恐悦に存じまする……」
「なに、尾張中将様の御一子万太郎ぎみがそちの家に? そりゃ稀有けうなことじゃ、万が一、お粗相でもあっては、お家の一大事」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まさしくそれこそは、ぐずり松平の御異名で呼ばれている源七郎ぎみに違いない。だが、そのお姿の物々しさを見よ。
さればこそ万寿ぎみの身をゆだねられて落ちたのだろうに、近ごろ、我慾に目がくらんで、新田義貞のもとへ密訴して出た。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女駕の御守殿ごしゅでん供人ともびとなど、合点のゆかない行装であるが、父中将の持てあましている万太郎ぎみの日常を知る者には、さほど、目をみはるに足らないことで
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして小太郎ぎみ(義貞)のお相手にはよい者と選ばれて、ここから近い利根川の舟遊び、文珠山の紅葉狩り、冬は小坪こつぼ雪団ゆきまろめと、四季いろいろな記憶は多い。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ああそれはそれは、右大臣信長公うだいじんのぶながこうのお妹ぎみで小谷の方さま、おうわさにもうけたまわっておりました」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうです。その後家ぎみの許に、ご存知の、小右京の君も一つに身をよせていましたゆえ」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ただ今、神戸かんべ信孝ぎみ丹羽にわ長秀様などの一軍が、淀川の岸まで到着されました」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
関ヶ原の合戦に、細川家は東軍に御加勢、徳川方と旗幟きしはすでに鮮明でおざるし——また、其許そこもとにおかれては、故太閤さまの遺孤秀頼ぎみが、唯一の味方とお頼みの人とは世上にかくれもないことよ。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひさしく三法師ぼうしぎみにもご拝顔いたしませぬので、ただいまごきげんうかがいをすまして、おいとまをいただいてまいりました。時に、話はちがいまするが、さきごろ、秀吉どのには世にもめずらしいしな
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あっ、まに合わなかった。叔父ぎみは早や世を去ったか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)