がたな)” の例文
しかし今の彼のさびしい腰のまわりには楊条もなかった。ちいがたなも見えなかった。彼は素足に薄いきたない藁草履わらぞうりをはいていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黙然と、うなずいて、彼はまだ着た儘であった大紋を脱ぎ、烏帽子えぼし、鼻紙、ちいがたな、扇子など、すべてを揃えて、田村家の家臣に渡した。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たわむれに居合をぬいて、随分ずいぶん好きであったけれども、世の中に武芸の話が流行すると同時に、居合がたなはすっかり奥に仕舞しまい込んで
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すると、大名の人形が、左手ゆんでを小さがたなつかにかけながら、右手めて中啓ちゅうけいで、与六をさしまねいで、こう云う事を云いつける。
野呂松人形 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その上に人斬ひときがたなを横たえて武士は市民の上に立ち、金はあっても町人は、おなじ大空の月さえ遠慮して見なくてはならないほど頭があがらなかった。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
と云いながらひっさがたなでズーッと通りましたから、森松はふみの取次をした事が露顕したか、立花屋で御馳走になって二分貰った事があらわれやしないかと思って気をんでいると
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、言い返して、木戸へ、肩をぶつけて突き破るがはやいか、地を躍って、深い闇へ、魔形まぎょうに似たがたなの光を、何処ともなく、くらましてしまった。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とずいとひっさがたなで立つと、他の者が之を見て。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ほっとしていると、梯子段はしごだんの上から見たのが、白足袋しろたびはかましゃの羽織——がたなをした——いい年配の武家が三人。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
涼風すずかぜならぬ一陣の凄風せいふう、三人のひっさげがたなにメラメラと赤暗い灯影ほかげゆるがした出会であがしら——とんとんとんとやわらかい女の足音、部屋の前にとまって両手をついた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「驚くなよ、お十夜だ」がたなになって、孫兵衛がのっそり五日目に帰ってきた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あおくなって、中間ちゅうげんが、奥へ告げると、八十三郎はがたなで、つかつか出て来た。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とも気づかず、抜刀ぬきみを鞘に入れる間もなく駈けてきた大月玄蕃が、思わず、駕わきの侍にドンとぶつかった。ふと見ると、さげがたなの浪人が、血相変えて行列をけようとしたので
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怖ろしくんびりした男である。看板には「御たましい研所とぎどころ」と高言しているが、こんな男に武士の魂を研がせたら、とんだなまくがたなになってしまうのではあるまいか——一応案じられもする。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「見るもなつかしいことである。これはまぎれもなき伊那丸いなまるまもがたな……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて彼の前に、取次の小侍とも見えぬ青年が、がたなで立ち現れ
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がたなで、雨戸を開けた。
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)