そなわ)” の例文
こういう先生は単にいんそなわるだけで、手本に似ぬ拍子をやる仲間だろうと思うが、それがまたかえって一座を賑かにするのであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
この組織は、倭宮廷にもそなわっていた。神主なる天子の下に、神に接近して生活する斎女王いつきのみこといふ高級巫女が、天子の近親からえらばれた。
最古日本の女性生活の根柢 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
されどドレスデンの宮には、陶もののといふありて、支那シナ日本の花瓶はながめたぐいおほかたそなわれりとぞいふなる。国王陛下へいかにはいま始めて謁見えっけんす。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あらゆる画風を生じ傑作を無数に残し、その技法は完全に研究され絵画の組織は充分にそなわり過ぎる位いに備ったのである。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
自然とそなわる貴族的なる形の端麗、古典的なる線の明晰を望む先生一流の芸術的主張が、知らず知らず些細ささいなる常住坐臥じょうじゅうざがあいだに現われるためであろうか。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
国内的にはプロレタリアートの指導権が統一確立され、ぐるりをとりまく資本主義国間の矛盾に面して社会主義人民政権として独自の立場から対処する能力がそなわった。
作家の経験 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
永い年月工夫くふうしたかういふ境地に応ずべき気の持ちやうが自然と脱却して、いまは努めなくても彼の形にそなわつてゐた。それは「静にして寂しからず」といふこつであつた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
たまりのに集って控えている女たちに、「皆さん、今日は御苦労様です」と、すそを引いてずっと通りすぎる様子などは、さすがにそれだけの品がそなわっているといわれました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そのむすめが、告発後自殺するならば、夫に対しては義を守り、父兄に対しては孝悌の道を尽す者であるということが出来るけれども、これはそなわらんことを人に責めるものであって
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
すくなくともいい俳句ではありません。また、十七字という調子は自然にそなわっているのです。その調子をないがしろにするものは俳句とは考えません。少くともいい俳句ではありません。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かくて三年みとせばかり浮世を驀直まっすぐに渡りゆかれければ、勤むるに追付く悪魔は無き道理、殊さら幼少よりそなわっての稟賦うまれつき、雪をまろめて達摩だるまつくり大根をりてうそどりの形を写しゝにさえ、しばしば人を驚かせしに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
内藤岡ノ二士及ビ泥江春濤円桓同ジク舟ニ入ル。きょうともそなわル。潮ハまさニ落チテ舟ノ行クコトはなはすみやカニ橋ヲ過グルコト七タビ始メテ市廛してんヲ離ル。日すでくらシ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一番親しく、神の身に近づく聖職にそなわるのは、最高の神女である。しかも尊体の深い秘密に触れる役目である。みづのをひもを解き、また結ぶ神事があったのである。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
一つの技法がその技法の限界をえると、その技法はかえってよくならずに死滅してしまうものである。油絵には油絵だけが持つ生命があり表情がありその能力にも限界がそなわっている。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)